柳楽優弥、脇役でも絶大なる存在感 “怪演”も可能にする研ぎ澄まされた演技力

 この夏を爽やかに彩る“さかなクン”の半生を描く映画『さかなのこ』では、のんが主人公のミー坊を演じ、柳楽優弥がミー坊の幼なじみのヒヨに扮している。脇役という立ち位置ながら、シーンを制する柳楽の存在感は絶大だ。

 お魚大好きのミー坊は、幼い頃からお魚中心の生活を送り、将来は“お魚博士”になりたいと思っている。そんな独特のスタイルを貫くミー坊を肯定し、その夢の実現を応援するのが、“狂犬”という異名を持つ不良高校生として恐れられたヒヨだ。“好きなことを、ずっと好きでいることの大切さ”がテーマとなる本作において、ヒヨが果たす役割は大きい。

 高校生になったミー坊と久しぶりの再会を果たしたヒヨは、夢を持ちながらも努力しようとしないミー坊を叱咤激励する。あるいは2人が社会人になってからのこと、昔と変わらず魚一辺倒の毎日を送るミー坊に心からの言葉をかける。この熱情と無骨な優しさを併せ持つヒヨという役柄を、柳楽は緩急を効かせた演技で好演。ここぞという時に放つ、深い想いが込もったそのセリフには引力が宿り、観る者を惹きつけられずにはいられない。

『さかなのこ』©︎2022「さかなのこ」製作委員会

 思えば俳優・柳楽優弥には、知らず知らずのうちに人の視線を集める不思議な魅力があった。

 1990年生まれの彼は、2004年に公開された是枝裕和監督作『誰も知らない』で母親に見捨てられた子供たちの長兄役を演じ、第57回カンヌ国際映画祭コンペティション部門の男優賞を史上最年少で受賞。世界的俳優というプレッシャーは相当なものだったのだろう。その後、不調により一時的に仕事から離れた彼は、2008年には普通の生活を取り戻すかのようにバイト生活も体験。10代にして深い挫折感を味わったという。

 そんな彼の“復活の狼煙”となったのが、2013年公開の李相日監督によるクリント・イーストウッド監督の名作リメイク『許されざる者』だ。明治時代初期の蝦夷地を舞台に渡辺謙が主人公の“人斬り十兵衛”に扮し、柳楽は十兵衛と共に女郎の敵討ちに向かう青年役を野性味たっぷりに熱演した。厳しいことで知られる李組で鍛えられ、渡辺、柄本明、佐藤浩市ら芸巧者たちから直に教えを受けた経験が、その後の俳優人生での大きな財産となったことは想像に難くない。

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