黒木華×杉野遥亮の演技に釘付け 『僕の姉ちゃん』を10倍楽しむための3つのキーワード

「考えてみたらさあ、人生ってあっという間なんだよね」

 いきなりド直球、本質をつくような、ちはる(黒木華)の“至言”が鳩尾にドスンとくる。2021年9月からAmazon Prime Videoにて配信され好評を博した『僕の姉ちゃん』が、このたび地上波(テレビ東京ほか)で放送を開始する。

 益田ミリによる人気漫画シリーズをドラマ化。輸入家電の会社に勤める三十路のちはると、その弟で冷凍食品メーカーに勤務する社会人1年目の新米営業・順平(杉野遥亮)は、両親の海外赴任により訪れた「つかの間の2人暮らし」の日々を送っている。姉弟の、仕事と、恋と、家時間。この「日常系ドラマ」を楽しむポイントを、3つのキーワードとともに紹介していきたい。

ゆるいようで、締めるところは締める。「メリハリの妙」

 前髪を“ヤワラちゃん結び”にして、スウェット姿で足を投げ出し、「今晩のアテ」をワインで流し込む姉・ちはる。背中を丸めてビールと牛丼をかっこむ弟・順平。そんな「完全オフモード」の2人が自宅のリビングで繰り広げる、ゆる〜い会話劇がこのドラマの柱だ。でも、「指毛」の話をしていたと思ったら、不意に太い人生論をブチ込んできたりするから油断できない。

 恋人でも友達でもない、「姉弟」という関係だからこそ生まれる、ストレートな会話が小気味よい。肉親ならではの、ちはるの容赦ないツッコミと“イジり”に順平はタジタジだけれど、互いによき理解者だったりもする。酸いも甘いも嚙み分けた現実主義の姉・ちはると、おっとり理想主義ぎみの弟・順平のコントラストが絶妙だ。だが、そんなちはるとて、悩めるひとりの人間であり、順平に「ちょっといいこと」を言いながら、自分に言い聞かせているようでもある。

 クッタクタの家着をまとい、テレビを観ながらホワイトロリータをむさぼる姿とのギャップが激しく、会社に行くときのちはるはハイブランドのバッグと靴でばっちりキメている。仕事はデキるし、退勤後は不特定多数の男性とデートを愉しむこともある。そんなちはるを、まるで珍しい動物のように観察する順平の視点も面白い。知っているようでそんなに知らない、姉弟ならではの距離感がよい。

 順平の悩みが実に「社会人1年目あるある」で、そんな彼に職業人の先輩としてちはるが授けるアドバイスがいちいち的を射ている。ゆるい日常系ホームドラマと見せかけて、順平の社会人としての成長もちゃんと描かれる。

名脇役の「食べ物」と「小道具」

 日常を描くドラマとあって、食べ物の描写が実に細かい。2人が帰宅後、各自好き好きに食べる物にはすべて「理由」がある。やる気ない日の宅配ピザ、ご褒美ケーキ、「ほら元気出せ」のシュークリーム、イマイチうまく焼けなかった卵焼き、急に思い立って意識高くスムージー、休みの日なので「たまには丁寧に」焼き魚とおかず2品に汁もの……などなど、食べ物が2人の生活を雄弁に物語る。シンクに残った洗い物の状態、レトルトカレーに入ったローリエの扱い方ひとつに、ちはるの人となりや心理状態が見えてくる。

 ドラマの主な“舞台”である、キッチンとリビングのしつらえも、センスがいいのにちょうどいい「生活感」の出し方が巧みだ。家具や小物、雑然と置かれた生活用品のひとつひとつに込められた「意味」を探すのが楽しい。リビングボードの上には、両親の結婚写真と幼い頃の2人の写真が飾られている。両親が真っ当な愛情を注いで健やかに育った姉弟だということがわかる。キッチンの「使用感」も重要な役割を果たしていて、ちはると順平が代わる代わるそこに立ち、何か作って食べ、毎日を生きる姿がとてもリアルに感じられる。

関連記事