『ソー:ラブ&サンダー』贅沢な悪ふざけが楽しい 長大化するMCUの息抜きとなる一作に

 こうした遊びが全編に組み込まれ、「楽しいMCU」を満喫できる構成が本作最大の魅力だろう。全編に感じられるアメリカン・コメディの風通しのよさが心地よく、スケールの大きさで圧倒するだけがMCUではないと思わせてくれる。わけても劇中、ソーの伝説を追体験できるテーマパークがあり、ショーが行われているという設定には、よくぞここまで下らないことを考えるものだと感動してしまった。

 テーマパーク内の舞台では、クリス・へムズワースの実兄、ルーク・ヘムズワースがソーを演じ、マット・デイモンがロキ、そしてメリッサ・マッカーシーがヘラに扮したアトラクションショーが行われており、観光客が座席で見守っている。誰もが注目する、ビッグバジェットのMCU作品でこの三文芝居をやるセンスのよさに、全身がしびれるような感覚を味わった。大根役者風の演技を嬉々として見せる三名。何と贅沢な場面なのだろうか。どれほど予算をかけたフルCGバトルより、記憶に残るシーンである。

 アクションにもタイカ・ワイティティらしいひねりが加えられ、アズガルドの子どもたちが大暴れ、というほのぼのしたバトルシーンも見事。爽快さと微笑ましさが混じり合った、個性的な印象を残す。

 また、ソーとジェーンの関係性も美しく、「相手を想うがあまりに心を閉ざしてしまっていた両者が、本当の意味でお互いに心を開く」という展開には胸を打たれた。そして、ふたりがどうやって愛し合い、お互いに夢中になり、やがて関係が冷めていったかを描いたモンタージュ場面も、まぶしい印象を残す。純粋に「この映画が好きだ」と想わせてくれる、秀逸なモンタージュである。

 ポジティブで明るいイメージにあふれた本作は、アメリカン・コメディのファンに響く映画として愛されるだろうし、私はこれから先「ウェルカム・トゥ・ザ・ジャングル」を耳にした途端、思わず笑みがこぼれてしまうだろうという気がしている。

■公開情報
『ソー:ラブ&サンダー』
全国公開中
監督:タイカ・ワイティティ
製作:ケヴィン・ファイギ
出演:クリス・ヘムズワース、ナタリー・ポートマン、テッサ・トンプソン、クリスチャン・ベール、タイカ・ワイティティ、ラッセル・クロウ
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
原題:Thor: Love and Thunder
(c)Marvel Studios 2022

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