激減するラブコメの需要と『モエカレはオレンジ色』人気の理由 山岡潤平が描く“愛”の本質
実は今作、監督は村上正典、脚本も山岡潤平と、どちらも男性。このパターンは珍しくない。『花より男子ファイナル』(2008年)や『僕の初恋をキミに捧ぐ』(2009年)なども同じである。というより、映画業界の男性比率の方が多いという根本的な問題もあるが、男性が女性目線のラブコメを撮ることは昔から多かった。
それによって価値観の相違を生み、結果的にマッチョイズム的な作品になってしまっていることも多いのだが、少女マンガそのものが、そもそも「強い男性に守られたい」といった趣旨の作品が多いため、問題点を見えづらくさせていた。
2010年以降、割と最近になって、女性の脚本家が採用されることが多くなったが、今作のように必ずといったものでもない。その分、かえって今回は男性だから、女性だから、という偏見的な見方がされてしまうこともあり、作り手としては、プレッシャーが半端ではないのに加え、急加速で価値観がアップデートされ続けている現代においては、それが言い訳として通用しない。
ところが、このプレッシャーは良い方向に向いているといえる。真の中立とは何かを改めて考えさせられる作品を目指すために、より脚本に工夫を凝らさなければならない傾向にあるのだ。そして今作の場合は、男女が対等の立場として、互いを想う気持ちの大切さを描いてみせている。
そこで思い出されるのが、山岡潤平が脚本を務めた『ピーチガール』(2017年)である。
『ピーチガール』の原作は、ガングロギャルが一般的に認知されていた90年代から2000年代前半が舞台となっている。しかし映画版は、それを現代の設定に置き換えたことで、ガングロギャルという根本的な素材を活かすことができず、少し日焼けしている程度の肌が黒い女子高生という設定にされてしまっていたため、そもそもの「見た目とのギャップ」という設定が弱くなってしまっていることに対する指摘がされてしまったのは残念でならない。だが、目を向けてもらいたいのは、こちらも自己犠牲、互いを想う気持ちが描かれているという点だ。
ちなみに、同じく山岡が脚本を務めた『honey』(2018年)も同様のテーマが描かれている。どちらの原作においても、そういったテーマは含まれているのだが、脚本によって、それを強調している。つまり今作においても山岡の作家性が存分に発揮された作品ということだ。
どうしてもアイドル映画、若者向け映画という偏見からは逃れることはできない。だが、その枠組みの中で試行錯誤され、生み出されたものが、実は単純なことなのに、私たち人間が日々の生活の中で忘れがちになってしまっているものを描いていることも多い。ド直球に描かれているからこそ本質が伝わることもあるはず。
はじめから「興味がないジャンル作品だから」といった偏見を一度捨てて、観てみると意外な発見があるかもしれない。
さすがにアイドル映画とあって、恥ずかしくなるようなセリフのオンパレードではあるものの、恋愛だけに留まらない「人間愛」として描くことで、そんなセリフにさえも説得力をもたらしているのだ。
※記事初出時、本文に誤りがありました。以下訂正の上、お詫び申し上げます。
誤:神徳幸治
正:村上正典
■公開情報
『モエカレはオレンジ色』
全国公開中
出演:岩本照(Snow Man)、生見愛瑠、鈴木仁、上杉柊平、浮所飛貴(美 少年/ジャニーズJr.)、古川雄大、藤原大祐、永瀬莉子、高杉彩良、晴瑠、笛木優子ほか
原作:玉島ノン『モエカレはオレンジ色』(講談社『デザート』連載)
監督:村上正典
脚本:山岡潤平
配給:松竹株式会社
製作:「モエカレはオレンジ色」製作委員会
(c)2022「モエカレはオレンジ色」製作委員会 (c)玉島ノン/講談社
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