『ベター・コール・ソウル』運命が動く“長き夜” ガスが冷酷無情な麻薬王へ

※本稿には『ベター・コール・ソウル』シーズン6のネタバレを含みます。

 『ベター・コール・ソウル』はジミー・マッギル(ボブ・オデンカーク)が悪徳弁護士ソウル・グッドマンへ変貌する物語であるのと同時に、『ブレイキング・バッド』に登場するガス・フリング(ジャンカルロ・エスポジート)がアルバカーキを支配する麻薬王へと昇り詰める物語でもある。シーズン6の第8話はガスのミッシングリンクを埋めるファイナルチャプターであり、彼らの運命が動く“長き夜”を描いた濃密な49分だ。

 ラロ・サラマンカ(トニー・ダルトン)にジミーを人質に取られたキム(レイ・シーホーン)は、命じられるがまま誰の住まいかも知らずに指定された住所へと赴く。そこに住む“図書館司書のような男”を狙い撃ち、死体をカメラに収めなくてはならない(エピソードタイトルは『Point and Shoot』)。件の住所はもちろんガス・フリングの邸宅で、“肝が座っている”キムは、拳銃片手に乗り込んだところをマイク(ジョナサン・バンクス)に取り押さえられる。マイクはさすが元警官らしい手並みで事態の収拾に動くが、ガスには何か別の勘が働いているようだ。残った手勢を連れてラボ建設現場のあるランドリー工場に出向くと、そこにはラロが待ち構えていた。

 表向きは人気ファストフード店を経営する実業家ながら、裏では麻薬カルテルの幹部であるガス・フリング。常に冷静沈着、寸分の隙もない身だしなみの紳士で、その胸には愛する者を奪ったカルテルへの復讐心が秘められている。『ブレイキング・バッド』では極秘ラボで作成されたメスを売りさばき、カルテルすら凌ぐ巨大ドラッグ帝国を作り上げていた。しかし、『ベター・コール・ソウル』の時点ではその強すぎる怒り故にしばしば心乱す事もあり、このシーズン6で影なきラロ・サラマンカに動揺する姿は後の『ブレイキング・バッド』には見られないものだ。

 だが事態が混迷を極める中、ガスだけは先を読んでいた。シーズン6の第5話、ラボこそが決戦の場になると信じたガスは電源ケーブルのアタッチメントをひねり、そこから歩幅を数えて重機の隙間に拳銃を仕込んでいた。かくして死神のようなラロに打ち勝ったガスは、僕たちの知る冷酷無情な麻薬王へと昇りつめるのである。

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