『バズ・ライトイヤー』に存在した、『トイ・ストーリー』シリーズとの精神的に強い繋がり

 さて、この展開、『トイ・ストーリー』(1995年)の物語を踏まえていると、さまざまな点で類似している部分があることに気づくはずだ。

 『トイ・ストーリー』に登場していた、おもちゃのバズは、自分が本物のスペースレンジャーのヒーローだと信じていて、おもちゃの仲間たちの言うことをまるで意に介さず、ひとりよがりな態度を取り続ける。しかしそんなバズは、ついに自分がおもちゃに過ぎないことを知ってショックを受けると、最終的に自分の境遇を受け入れて、仲間たちと助け合いながら困難な状況を打開し、まるで本物のヒーローのような姿を見せる。

 つまり、『トイ・ストーリー』と『バズ・ライトイヤー』は、これまでの頑なな自分の考えから抜け出し、仲間たちと助け合うことで、真のヒーローになることができるという内容を描いていることになる。設定や世界観はまるで異なるものの、全く同じテーマを扱っているのだ。そう考えると『トイ・ストーリー』のバズは、本家のバズ・ライトイヤーと同じ試練をくぐり抜けた、本物のヒーローだったということになる。

 自分の優れた能力を見せびらかしたり、自分の栄光を手に入れるために動くのではなく、誰かを助けるためにリスクを払ったり、自分以外の存在を尊重する態度をとってこそ、真のヒーローだということなのだ。そんなヒーローの本当のあるべき姿を描いた、本作『バズ・ライトイヤー』の内容は、『トイ・ストーリー』の展開と重ねることで、バズ・ライトイヤーという存在をより際立たせ、双方の物語を、さらに味わい深いものにしているように思えるのである。

 本作でも発せられる、「無限の彼方へ、さあ行くぞ!」という、バズ・ライトイヤーの決めゼリフは、『トイ・ストーリー4』(2019年)のラストでは、未知の世界へ歩み出す勇気を表現するメッセージとして、哲学性を持つ言葉となっていた。しかし、それは本作や『トイ・ストーリー』の第1作の時点でも、受け入れ難い状況を飲み込んで最善を尽くそうとするバズの、生きるための哲学としてのメッセージとして語れるものであったことが、本作のおかげで理解できるのだ。

 ピクサー・アニメーション・スタジオでは、スタッフが10年務めると、バズ・ライトイヤーの銅像が一人ひとりに贈られるのだという。アニメーション制作では、互いを認め合い尊重しながら協力することが求められる。バズはそんなチームの理想的なメンバーの象徴なのだ。そして、「無限の彼方へ」と表現される、自分やスタジオにとっての、新しい可能性に挑戦する姿勢もまた、バズに学ぶところが大きいはずである。

 アニメーション業界の最前線で圧倒的な存在であり続けているピクサーで共有されている意志や理想の姿こそが、まさにバズ・ライトイヤーだったのである。そして、本作『バズ・ライトイヤー』は、まさにその真髄を描いた、ピクサーならではの一作だったといえるのだ。

■公開情報
『バズ・ライトイヤー』
全国公開中
監督:アンガス・マクレーン
製作:ギャリン・サスマン
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
(c)2022 Disney/Pixar. All Rights Reserved.

関連記事