『ソー:ラブ&サンダー』評価のポイントはとっ散らかっている感? 喜劇と悲劇の同時上映

 メチャクチャに強い雷神のソー(クリス・ヘムズワース)は、元カノで地球人のジェーン(ナタリー・ポートマン)と再会を果たす。しかも何とビックリ、ジェーンは色々あってソーと同じ雷神のパワーを得ていた。そんな2人の前に神様を殺して回る謎の男ゴア(クリスチャン・ベール)が現れる。

 タイカ・ワイティティ監督がメガホンを取った『マイティ・ソー バトルロイヤル』(2017年)により、ずっこけアクション映画に大きく舵を切った『ソー』シリーズ。今回の『ソー:ラブ&サンダー』も、どこをどう切ってもワイティティな作品に仕上がっている。ギャグの偏差値は前作より低下しており、一瞬、完全なスタジオコントに見えるシーンもあった。ただ、その全てが爆笑ギャグかといえば……そこまでの打率には達していないのが事実だ。「今のギャグはいるかな?」「もうソーというより、単なるおもしろクリス・ヘムズワースになってないか?」こういった疑問が頭をよぎる瞬間も多々あった。

 しかし、それでも私は本作が大好きである。私がワイティティの映画に求めるものがあったからだ。彼の映画の魅力は、喜劇と悲劇の境界線がない部分にある。どれだけ悲惨な状況でも、間の抜けたことは起きるもの。その逆で、笑いに満ちた喜劇の真っ最中に悲惨な出来事が起きることもある。喜劇と悲劇は紙一重なのではなく、常に同時上映なのだ。こうした価値観が彼の根底にあるように思う(『志村けんのだいじょうぶだぁ』(フジテレビ系)で、時おり「シリアス無言劇」をやっていたようなものだろうか。ワイティティは志村けんと同じマインドで創作をしているように思う)。

 『ラブ&サンダー』は全編ギャグに彩られているが、根底にあるプロットはストレートな悲劇である。神に見捨てられたゴアの復讐譚であり、ナタリー・ポートマン演じるジェーンが、自分がどう生きるかの決断を求められる物語だ。しかし、このシリアス極まりない物語を、ワイティティはスベっても構わないくらいに大量のギャグを入れて、ガンズ・アンド・ローゼズの名曲を次々とブチ込んでアッパーなテンションで語っていく。この姿勢は、悲劇を単なる悲劇では終わらせない、ひいてはどんな逆境でも必ず笑いや希望はあるという、ワイティティからのメッセージに思えた。「生きてるだけでOK!」と断じるのではなく、「生きていてもロクなことがない」と嘆くのでもない。その中間にある「生きていると辛いこともあるけど、面白いこともあるよ」という絶妙なポイントを狙ってワイティティは映画を作っている。ふざけまくっているように見えて、その姿勢は真摯そのものである。

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