『ちむどんどん』の恋愛描写の先にあるのは沖縄への回帰か 暢子の“好き”を考える
第64話では、亡き父・賢三(大森南朋)が民謡歌手を目指していたという過去がわかる。地に足のついた頼りがいのある父のイメージのあった賢三だが鶴見で調理人をやってみたり民謡歌手を目指してみたり、やんばるでサトウキビ栽培をやったりと意外と紆余曲折があるようだ。もしかしたら、若い頃は賢秀(竜星涼)のように沖縄の一番星になるとかビッグなビジネスをやるとか大望を抱いていて、いつしか自分の道を見つけたのかもしれない。それは優子(仲間由紀恵)と子供たちとやんばるで生きていくこと……。
暢子にとって和彦はおそらく料理と同じく、どん詰まりの人生に差した光である。面白いのは、そんな和彦が沖縄に興味をもっていることだ。予想に過ぎないが、暢子は和彦によって沖縄に心は帰っていくのではないだろうか。外から沖縄を見ている和彦のまなざしによって暢子は故郷・沖縄を再発見するわけである。
第63話、沖縄の歴史に興味を持ち、影に隠れた真実に目を向けようとする和彦を見る暢子の瞳はどこか違って見えた。和彦への愛情は暢子の沖縄への愛情なのではないか。
和彦にとっても暢子は沖縄そのものなのだろう。父・史彦(戸次重幸)の影響とはいえ、少年時代、沖縄に来たときは馴染めない土地だった。それを驚きに満ちた輝かしい場所に変えてくれたのは他ならぬ暢子である。
かように暢子と和彦の関係は、単なるもどかしい恋愛の面も持ちつつ、遠く離れてついおろそかになりがちな沖縄に思いを致すことなのではないか。おりしも歌子(上白石萌歌)も沖縄の歴史と共にあり沖縄の心を歌う民謡歌手を目指しはじめる。
なんて固いことも考えさせつつ(筆者が勝手に考えているだけだが)、第65話では暢子と和彦と愛と智が海で青春していた。まだ暢子は完全に和彦を選んではいない。愛には「好きだけど諦める」と宣言しているのだ。愛は申し分のない好人物で、彼女が和彦を好きではなくならない限り、和彦と暢子がつきあうことは人としてゆるされない状況だと感じる。どう決着をつけるか楽しみである。
■放送情報
連続テレビ小説『ちむどんどん』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
※土曜は1週間を振り返り
主演:黒島結菜
作:羽原大介
語り:ジョン・カビラ
沖縄ことば指導:藤木勇人
フードコーディネート:吉岡秀治、吉岡知子
制作統括:小林大児、藤並英樹
プロデューサー:松田恭典
展開プロデューサー:川口俊介
演出:木村隆文、松園武大、中野亮平ほか
写真提供=NHK