『17才の帝国』に脚本家・吉田玲子が込めた思いとは? 再放送を機に制作陣に手応えを聞く
SFだからこそ描けた政治の世界
――放送が終わっての反響はいかがでしたか?
佐野:先日、小学校3年生の友達の子どもに会ったら「“18才の帝王”面白かった」って言われたんです。
――微妙な間違え方が面白いですね(笑)。
佐野:その後、いろいろ質問があると言われて「市議会って何?」「総理大臣って何する人なの?」と聞かれた時に「あぁ、本当にやってよかったなぁ」って思いましたね。毎回、作品を作るときは、「視聴者」と考えると漠然としているので、「どういう人に届けたいのか」と具体的なターゲットを考えるんですよ。「あの時の自分」とか「生きづらさを抱えている親友のために」とか。今回は特にターゲットを決めないで進めたのですが、小学生の子が「市議会ってなんだろう?」と興味を持ってくれたのなら、『17才の帝国』を作って「よかった」と思います。
――「届いた」って感じですよね。
吉田:色々なことを考えていただけることが嬉しいです。作品って世に出した時点で作り手の手を離れて、観る人のものになると思うんです。作品を観たことで、ちょっとでも知識が広がったり、その一時、楽しかったり、泣いちゃったり、心動かされたり、その積み重ねがその人を作るので『17才の帝国』が好きでも嫌いでも、作品について考えたことが、その人にとっての「何か」になれば、嬉しいです。
西村:予想外だったのは政治パートをもっと見たいという声が多かったことですね。最初は視聴者が政治の話をどれくらい見たいと思うのかわからなかったので、もっと青春ドラマやSFの方に寄せた方がいいのかなと思っていたのです。政治パートが求められているというのも今の世の中を象徴しているなと感じます。
――視聴者が求めるものも少しずつ変わってきているのかもしれないですね。政治を題材にしたドラマを作ることに対しては、どうお考えでしたか?
西村:作品を支える大きな枠組みが、SFやAIだったので、その枠組みの中で政治を扱うことに対しては抵抗なく、伸び伸びと作れました。
吉田:私はもうAIにソロンという名前をつけるところからワクワクしました。
佐野:いい名前ですよね。
吉田:そうやって世界を作ることから始められるのがフィクションの良い所で。政治を扱うにしてもこの世界の中の政治ですので、現実を反映しているところもあれば、そうでないところもある。だから、『17才の帝国』は、SFであることを一番に考えて書いていたところはありますね。
――放送中に円安が急速に進み、現実の状況が思っていた以上に『17才の帝国』のサンセット・ジャパンの世界に近づいてしまったわけですが。
吉田:現実が一番予想外ですよね。私が子どもの頃は、携帯電話がこんなに急激に発展して様々な機能が付くとは想像もできなかったですし。SFの歴史は常にそういう歴史で、現実が物語を追い越していく。それは面白いことだと思っています。
――最終話を観終わった後、『17才の帝国』の世界が羨ましくて。現実の日本よりも「良い世界だよな」と思いました。
西村:最初にそれを目指しました。ディストピアモノから方針転換した時に、世の中がこういう状況なので「みんなが行きたくなるような場所」としてウーアの世界を作れたらいいよねという話を、プロダクションデザインの服部竜馬さんたちと最初に話しました。
――だから、物語が終わった後、現実に取り残されたような気持ちになるんですよね。「17才」というテーマと同じで、最後は自分たちの問題として跳ね返ってくる。
吉田:そこに希望を見いだせるかどうかは大きいですよね。
――作品が面白かったからこそ、「5話では短い」「スピンオフや続編を見たい」という声もありますが、吉田さんとしてはいかがですか?
吉田:違う形でお話を作るのでしたらいいですけれど。ウーアの世界でできることはやりきったかなぁ。『17才の帝国』というタイトルでやりたかったことは、結構ぶち込み過ぎたかなぁと思います(笑)。
――最後に、これから『17才の帝国』を観る方に向けて、ここを観てほしいというポイントをお願いします。
吉田:デザインワークの方が頑張ってくださっていて、テレビでは見ないような映像となっていたのが素晴らしかったです。創造された世界が楽しめるドラマは意外と少ないので、そこを楽しんでいただけたらと思います。
■放送情報
『17才の帝国』再放送
NHK総合にて放送
第1話:6月25日(土)01:55〜 ※金曜深夜
第2話:6月25日(土)02:45〜 ※金曜深夜
第3話:6月26日(日)00:25〜 ※土曜深夜
第4話:6月26日(日)01:15〜 ※土曜深夜
第5話:6月26日(日)02:05〜 ※土曜深夜
出演:神尾楓珠、山田杏奈、河合優実、望月歩、染谷将太、星野源ほか
作:吉田玲子
制作統括:訓覇圭
プロデューサー:佐野亜裕美
演出:西村武五郎、桑野智宏
写真提供=NHK