『シン・ウルトラマン』『トップガン』が話題の今、再評価したい『ULTRAMAN』

 そんな課題を見事にクリアし、「これまでにないウルトラマン作品」の壁を人知れず打ち破っていたのが、18年前の映画『ULTRAMAN』だった。本作の企画に至るまでの経緯を簡単に説明しておくと、『ウルトラマンティガ』(1996年)、『ウルトラマンダイナ』(1997年)、『ウルトラマンガイア』(1998年)という、リアリティ路線をふんだんに取り入れた“平成3部作”と呼ばれるTVシリーズの成功や、映画『ウルトラマンティガ・ウルトラマンダイナ&ウルトラマンガイア 超時空の大決戦』(1999年/本作はウルトラマンがマルチバース化する先駆けになっているので要チェック)の公開を経て、円谷プロダクションはさらにダーク&シリアスなヒーロー作品を目指すべく「YELLOW EYES」という新プロジェクトを2000年に立ち上げた。結果的に2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件を受けて内容修正が図られたのだが、派生する形で新たに立ち上がったのが、ネオスタンダードヒーローの創造を目指す「ULTRA N PROJECT」であった(※1)。その設定のベースは、『ULTRAMAN』の脚本家・長谷川圭一や監督・小中和哉を中心に組み上げられ、惑星を滅ぼす凶悪なスペースビースト、地球滅亡の可能性を予言する宇宙からの来訪者、彼らとコンタクト可能な超能力者、対スペースビースト殲滅機関として秘密裏に設立されたTLT、そして謎の光=ウルトラマンの力を受け継ぐ人間・デュナミスト……など、大人も楽しめるウルトラマンの新たな世界観が提示されていった(これらは2004年放送の『ウルトラマンネクサス』に集約されていく)。

 映画『ULTRAMAN』はそのプロジェクトの一環として制作され、2004年に満を持して公開を迎えたのだが、興行収入は1.5億円とあまりにも振るわない結果となってしまった。同時期公開の『ゴジラ FINAL WARS』と比較しても8分の1程度(この数字も歴代『ゴジラ』シリーズの中で高いとは言えない)。しかし『ULTRAMAN』は、そのハイクオリティな内容からウルトラマンファンにはアツく歓迎され、今に至るまで“不遇の傑作”として密かに語り継がれてきた。興行的な失敗要因の1つとして、当時の宣伝の不十分さがよく挙げられるが、今のようにSNSの口コミが当たり前にある時代だったら、最高のダークホースムービーとしてヒットを飛ばしたのではないか、という想像もしてしまうほどだ。

 この『ULTRAMAN』という作品には、『シン・ウルトラマン』と企画上いくつかの共通点がある。1つは、大人向け・一般向けを意識して作られた作品であるということ。『ULTRAMAN』のチーフプロデューサーだった鈴木清は本作について当時、「ハリウッドでは、コミックから生まれたヒーローが活躍する映画が広く受け入れられている。ならば、日本を代表するヒーローである『ウルトラマン』にも、それができないはずはない、という不満もあったんですね。今回は、ようやくその第一歩を踏み出した、という感じです」(※2)と語っている。また、もう1つは、初代ウルトラマンのリブート要素を大いに取り入れていることだ。1966年の『ウルトラマン』第1話「ウルトラ作戦第一号」では、赤い発光体となって地球にやってきたウルトラマンが、飛行中のハヤタ隊員(黒部進)と衝突して一体となり、青い発光体である怪獣・ベムラーと戦うという有名なシーンがある。『ULTRAMAN』はそのシーンをリアリティ重視でリブートしたところから始まり、現代社会に人知れず怪獣とウルトラマンが紛れ込んだらどうなるのか、という視点から物語が展開していく。

 より細かく言えば、怪獣を“ザ・ワン”、ウルトラマンを“ザ・ネクスト”と呼び、未知の存在を到来順にネーミングしていくやり方も、『シン・ウルトラマン』を先駆けている。ウルトラマンと怪獣を区別なく化物だと判断し、機械的にナンバリングする様はとてもリアルだ。また、“ウルトラマンの活動時間=3分”という大人の事情でつけられた設定を見直し、タイムリミットではなくエネルギー制限として描き直している点も、『シン・ウルトラマン』との共通点だろう。さらに『シン・ウルトラマン』では最初、ウルトラマンは銀色の巨人として飛来するが、地球人の神永新二(斎藤工)と一体化することで、血が通ったように赤のボディラインを得る。これも実は『ULTRAMAN』が先駆けており、人間と融合したての初期段階では銀色の体の“アンファンス”なのだが、戦う決意が強まるにつれて、赤のボディラインが入った“ジュネッス”へと変化していく。こうした細やかな新解釈がすでに18年前に描かれていたにもかかわらず、ヒットに至らなかったため、『ULTRAMAN』はまるで“早すぎた『シン・ウルトラマン』”的なる作品として、再評価の時を待ち続けることになるのだった。

 ストーリーも大切なので少し紹介しておく。『ULTRAMAN』の主人公・真木舜一(別所哲也)は航空自衛隊のパイロットであり、あるミッションで飛行中の夜、宇宙からやってきた謎の赤い発光体と遭遇してウルトラマンと一体化する。ウルトラマンは子供が憧れるヒーローというイメージだったが、本作を観たとき、宇宙生命体と融合して体が自分のものでなくなってしまうことは、こんなにも恐ろしいものなのかとゾッとした記憶がある。また、妻子を持つ家庭の父親がウルトラマンになるというのも、歴代シリーズで初めてのことだった(それ以降もほとんどない)。運命に翻弄されながら戦うハードなSF作品であると同時に、大切な家族との絆を描いた温かい物語としての顔も持っている。『シン・ウルトラマン』とどちらのストーリーが優れているかという議論はナンセンスかもしれないが、“初代『ウルトラマン』をリブートした大人向け作品”という企画意図が共通している以上、1本の映画としての起承転結をしっかり見せる点では『ULTRAMAN』に軍配が上がる。

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