MCUにピクサー、ホラーやコメディまで ハリウッドで台頭する若手女性監督たち
ホラーやコメディ映画でも若手女性監督が活躍
これまで女性監督の作品といえばヒューマンドラマが注目されることが多かったが、近年は先ほど紹介したヒーロー映画と同様に、ほかのジャンルでも女性監督の躍進が目立つ。第74回カンヌ国際映画祭では、ジュリア・デュクルノーが『TITANE/チタン』(2021年)でパルムドールを受賞。これで彼女は『ピアノ・レッスン』(1993年)のジェーン・カンピオン以来、パルムドールを獲得した史上2人目の女性監督となった。デュクルノーの長編2作目である『TITANE/チタン』は、幼い頃の交通事故により頭蓋骨にチタン製のプレートを埋め込まれた女性アレクシアを主人公としたボディホラーで、残忍な殺人をはじめ、意思を持った車との性行為といった倒錯的な描写が数多く登場する。当然これらのシーンは観客に衝撃を与えたが、本作はただショッキングなだけでなく、人が他者との関わりを求める痛切なまでの願いが描かれ、高い評価を受けた。デュクルノーの長編デビュー作『RAW~少女のめざめ~』(2016年)も衝撃的な描写の多いボディホラーだった。影響を受けた映画監督にデヴィッド・クローネンバーグの名前を挙げる彼女は、新たな“鬼才”として今後も突き進んで行くのではないだろうか。
また2020年には、女優としても活躍するエメラルド・フェネルが長編デビュー作『プロミシング・ヤング・ウーマン』で、イギリス人女性として初めてアカデミー賞監督賞にノミネートされた。ほかに作品賞と脚本賞にもノミネートされ、脚本賞を受賞している。親友がレイプ被害を告発したにもかかわらず、誰にも信用してもらえなかったことを苦に自殺してしまったことをきっかけに、医学部の優秀な学生だったキャシー(キャリー・マリガン)は学校を中退し、カフェで働くようになる。両親のもとで無為な日々を過ごしているように見える彼女だったが、実は夜な夜なバーに出かけては、女性を性的な対象物としか見ない男たちに制裁を加えていた。そんなある日、キャシーは医学部時代の同級生ライアン(ボー・バーナム)に再会し、過去に向き合うことを決意する。サスペンス/スリラーとしてキャシーの復讐を描いた本作は、秀逸な構成とストーリーテリングで絶賛された。フェネルの次回作はイギリスの貴族家庭を描く『Saltburn(原題)』で、ロザムンド・パイクが主演を務めることが発表されている。
コメディ作品では、やはり女優としても活躍するオリヴィア・ワイルドが『ブックスマート 卒業前夜のパーティーデビュー』(2019年)で長編監督デビューを果たし、絶賛された。学生生活を勉強に捧げ、名門大学への進学が決まった親友同士のモリー(ビーニー・フェルドスタイン)とエイミー(ケイトリン・デヴァー)は、遊んでばかりとバカにしていた同級生たちもまた名門大学に進学することを知りショックを受ける。2人は卒業式前夜にクラスの人気者のパーティーに参加することを決めるが、パーティー会場を知らない彼女たちは次々と珍騒動に巻き込まれ、また騒動を起こしていく。“女子版『スーパーバッド 童貞ウォーズ』”とも称される本作は、ハイテンションでバカバカしく、下品ともとれるジョークを盛り込んだ青春コメディとして大成功。数々の映画賞にノミネートされ、インディペンデント・スピリット賞の新人作品賞などを受賞している。この作品で女同士の唯一無二の友情を描いたワイルドは、2022年に監督2作目となる『Don't Worry Darling(原題)』が公開予定だ。こちらはフローレンス・ピューとハリー・スタイルズが共演するサイコスリラーで、1950年代を舞台としている。また彼女は2023年以降2作品を監督することが予定されており、そのうちの1つはソニー製作のマーベル映画で、女性ヒーローを描くものと言われている。コメディで華々しいデビューを飾ったオリヴィア・ワイルドは、ジャンルを問わず幅広い作品に挑戦していくようだ。
こうした若手女性監督の目覚ましい活躍は、映画業界にとっても社会全体にとっても、重要な意味を持つ。男女平等は叫ばれて久しいが、なかなか実現したとは言い難い。しかし女性映画監督が増え作品が正当に評価されるようになれば、それに勇気をもらった新たなクリエイターが誕生するだろうし、映画以外の分野でも女性たちをインスパイアすることができるだろう。映画をはじめとするエンターテインメントは、私たちが思っている以上に人々の意識に影響を与える。多くの注目を集める華々しい業界で、女性が男性と同じように責任ある立場に就くことが珍しくなくなれば、人々はそれが“普通のこと”だと思うようになるだろう。しかし現在はそうした状況にないため、女性監督が女性であるというだけで注目を集めるとも言える。今回はこうして女性監督の活躍をまとめたが、本当の理想は「女性“なのに”活躍していてすごい」という価値観がなくなることだ。そのための過渡期として今、女性監督の躍進が際立っていることは祝福すべきだし、このまま歩みを止めずに進んでいくことが望まれる。今後の彼女たちの活躍、そして社会がそれを受け入れていくことを期待したい。
■公開情報
『ザ・マーベルズ』
2023年公開予定
(c)2022 MARVEL