『持続可能な恋ですか?』第1話に覚えた違和感の正体 “父娘の関係の変化”と喪失のテーマ

 医師の日向(井川遥)との交流を通して少しずつ日々の楽しみ方を思い出していく、父・林太郎の様子に「母が亡くなった頃は、うちの父、ろくに食事もとらないで、なのに母が残した観葉植物には水をあげてて。辛そうで……」といつものように、どこか他人事のように語る杏花。そこで晴太が「そのとき、杏花さんはどうしてたんですか?」と尋ねるのだ。「わたし?」とハッとする杏花。

 「父を人間に戻さなきゃって必死で……」「わたしよりお父さんの方が(辛いはずだ)……」と言葉をさがす杏花に、「でも、杏花さんだって辛かったでしょ」そうやさしく促す晴太の声に、杏花はようやく涙をこぼすのだ。そして出てきた言葉は「会いたい。もう一度でいいから会いたい」。

 彼女は父を支えることに必死で、悲しむことも未だできずに、母の死と心から向き合うことを赦されてこなかったのではないだろうか。だからこそ、「ウチは今、お父さんとわたしの共働きなんだから」などと、まるで父娘だけで過ごすさみしくて残酷な毎日はいつか終わるような口ぶりが目立っていた。彼女は“喪失”を味わえないままに父との暮らしと仕事に没頭し、ここまでたどり着いてしまったのかもしれない。杏花の中で、母を失うことがまだできていないのだ。「会いたい」と、叶うことのない願いを口に出せたとき、ようやく悲しみの始まりに立つことができたのかもしれなかった。

 杏花の目下の目標は、独立し、自身のヨガスタジオを開くことだ。決意した道であれど、今後その過程で、悩み事は当然尽きぬほど出てくるだろう。そのとき、彼女は誰に相談したくなるだろうか。

 これまで結婚や恋愛にいまいちピンと感じるものがなかった彼女に心から愛する人(=晴太)が現れ、自身の価値観が揺るぎ始めている今、なにかに思い悩んだとき、それをいったい誰に聞いてほしくなるだろうか。なぜか取り憑かれているように「結婚」に執着し続ける2人の飲み友達よりも、ヨガの師匠よりも、杏花が心の奥底で求めてしまうのは、亡き母・陽子かもしれない。

 けれど杏花には今や、ようやく足並みが揃いはじめた、最大の「味方」がいるのだ。父・林太郎である。林太郎も悩んだときには「陽子さん、陽子さん!」と写真に問いかけることがあった。しかし“婚活”という親子としては一風変わったイベントを経て「喪失した父と、それを支える娘」は、やがて「互いに価値観をアップデートしながら、前を向き新しい喜びを知り始めたふたり」になりはじめているのだ。杏花の悩みをそばで聞いてくれるのは案外、父・林太郎であるかもしれない。

 家族のピースが欠けたとき、残された者たちはどのように再生していくのか。どのように向き合っていくのか。コミカルであたたかに描かれるストーリーには、“喪失”という大きなテーマも含まれている。杏花・林太郎のそれぞれの選ぶ道、そして父娘の関係性の変化にも最後まで目が離せない。

■放送情報
火曜ドラマ『持続可能な恋ですか?~父と娘の結婚行進曲~』
TBS系にて、毎週火曜22:00~22:57放送
出演:上野樹里、田中圭、磯村勇斗、ゆりやんレトリィバァ、井川遥、水崎綾女、清水くるみ、武田玲奈、鈴木康介、松重豊、鈴木楽、柚希礼音、八木亜希子
脚本:吉澤智子
演出:土井裕泰、山室大輔、小牧桜、加藤亜季子
プロデュース:中島啓介、吉藤芽衣
主題歌:幾田りら「レンズ」(ソニー・ミュージックエンタテインメント)
製作著作:TBS
(c)TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/jizokoi_tbs/
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