人の話を聞くことの美しさ ずっと忘れたくない、言葉と人と風景で溢れる『カモン カモン』
リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替りでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は、自身もインタビュアーとして活躍するアナイスが『カモン カモン』をプッシュします。
『カモン カモン』
マイク・ミルズ監督の待望の最新作『カモン カモン』が公開された。『人生はビギナーズ』では自身の父親のことを、『20センチュリー・ウーマン』では母親のことを描いたミルズが次に作品のテーマに選んだのは、自身の子供だった。幼い息子をお風呂に入れている時に浮かんだ構想から生まれた本作。しかし、彼は自分の分身とも言える物語の主人公ジョニー(ホアキン・フェニックス)をあえて子供・ジェシー(ウディ・ノーマン)の父親ではなく、伯父という位置づけに変えた。結婚もしていない、子供も持ったことのない彼だからこそ、初めて子供に向き合い、対話をし、子育ての難しさや対話の方法を学んでいくことができるからである。
恐らく、本作は観る者多くの心に残る作品だろう。その優しさと聞き心地の良さは、一日中ビーチにいた日に家に帰ってもまだ、鼓膜の奥の方で波の音が聞こえるのと同じ。そう、まるでジェシーが伯父さんの機材を借りて録音した音みたいに。自分の中に反芻するそれを、大事にしたいという気持ちが溢れる美しい映画だ。
“大人”である私たちは、この映画に登場する子どもたちの言葉に胸を突かれる。でも、なぜ突かれるのだろう。「こんな“子供”でさえ、こんなに深いことを考えているのか」と驚いているからではないか。いや、「“子供”だからそんな考えに至るはずがない」とたかを括って彼らの足跡を見ていたからだ。それでも子供たちの思慮深さと言葉の選び方、ものの見え方は大人のそれより富んでいる。“子供”ってなんだろう。私たちもかつては“子供”だった。年を取るにつれて得ていくと勘違いしていたが、本当は逆で、私たちは最初から全てを持っていたのかもしれない。そして、歳を取るにつれて失ってきただけなのかもしれない。ふと、本作を観ながらこういう考えがいくつも自分の中をよぎっていく。
映画に登場する、フェニックスにインタビューされている子供たちは、皆ふつうの子で俳優でもなく一般人だ。デトロイト、ニューヨーク、オークランド、ニューオリンズと、都市を巡りながらそこに実際に住む9〜14歳の子に様々な質問をしていく。自分の考えを聞かれた彼らは、素直に自分の考え、思っていることを話す。そんなシンプルなやりとりなのに、これが胸に響いて仕方ない。この作品の魅力の一つは、この“対話”にある。誰かに考えを聞くこと、聞かれること。誰かに考えを話すこと、話してもらうこと。これが大人になればなるにつれて疎かになっていくことを、主人公ジョニーとその姉の関係性が象徴する。