『モービウス』北米で首位発進も予想に及ばず スーパーヒーロー映画に求められる高水準

 ハリウッド大作映画、春の大混戦がいよいよ始まった。4月1日~3日の北米興行収入ランキングは、ソニー・ピクチャーズ製作によるマーベル・コミック原作映画『モービウス』がNo.1を獲得。北米4268館で公開され、3日間で3,910万ドルという滑り出しとなった。

 ディズニーによる20世紀フォックス買収を経て、いまやほとんどのマーベル・キャラクターはディズニー/マーベル・スタジオが映像化権を有しているが、『スパイダーマン』シリーズだけはその例外だ。ソニーはマーベル・スタジオと事業提携し、マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)にてトム・ホランド版『スパイダーマン』3部作を製作したが、同シリーズ以外にも独自のスパイダーマン関連作品を送り出しつづけている。

 本作『モービウス』は、コミックでスパイダーマンの宿敵として登場する“吸血鬼”モービウス・ザ・リヴィング・ヴァンパイアを初めて実写映画化した一本だ。ジャレッド・レト演じる主人公の医師マイケル・モービウスは、幼少期から患っている血液の難病を治療すべく、コウモリの血清を自身の肉体に投与。スーパーパワーを手に入れるが、その代償として血液を求める欲望を抑えきれなくなる。

 ソニー製作のスパイダーマン映画としては、本作は『ヴェノム』シリーズに続くヴィランの映画化作品だ。しかし『ヴェノム』がファミリー層を意識した比較的ライトな作風だったのに対し、こちらはよりダークなスリラー/サスペンス調。本稿の冒頭に「大作映画」と書いたが、製作費は7,500万ドル(宣伝費除く)で、ハリウッドのコミック映画としてはかなりの低予算となっている。

 では、『モービウス』の3,910万ドルという初動成績をいったいどう捉えるべきなのか。製作・配給のソニー・ピクチャーズとしては、事前の予想をやや下回る数字だったと考えるべきだろう。Deadlineによると、もともとソニー側は5,000万ドル超えのスタートダッシュを狙っていたというし、おそらくはそれゆえだろう、予告編をはじめとするプロモーションでは『スパイダーマン』とのリンクを最前面に押し出していた。『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』が歴史的ヒットを記録し、16週目の現在もトップ10に残っているところを見ると、『モービウス』の初動にはさらなる健闘が期待されていたはずだ。

 また、前週の首位だった『ザ・ロストシティ』(オリジナル脚本のロマンティック・コメディ作品)が3日間で3,100万ドルを稼ぎ出していたことを踏まえても同じことが言える。『モービウス』を支える文脈の豊富さ(スパイダーマン、マーベル、MCU、スーパーヒーロー、ジャレッド・レトなど)がある以上、いくら初登場のダークヒーローとはいえ、要求されるべきハードルはもう少し高いのではないか。批評家や観客の主な反応を見るかぎり、内容としてもさらに高水準の作品が求められていたこともわかる。Rotten Tomatoesの批評家スコアは17%、観客の出口調査に基づくCinemaScoreはC+評価だ。

 ただし、やむにやまれぬ事情があったことも考慮すべきだろう。本作はもともと2020年7月に公開予定だったが、コロナ禍のために2年近く公開が延期されていたのだ。本来の予定通りに公開されていれば、現在ほど高いハードルを求められる映画ではなかったとも言える。『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』の興行的成果、そして“マルチバース”というコンセプトの前面化が、結果的に『モービウス』のハードルを高めた側面がある。興行的にも内容的にも、あらゆる意味でスーパーヒーロー映画のハードルはどんどん上がっているのが現状だ。

 もっとも、『モービウス』はすでに全世界累計興収8,400万ドルを記録しており、海外62市場の興行成績は4,490万ドルという順調ぶりを示している。北米のアナリストは、配信リリースの契約なども含めると、本作の黒字化は十分に可能と見ているのだ。現時点で続編などは発表されていないが、ユニバースの構想的にもモービウスが再び登場することはほぼ確実。北米の初動こそもう一歩欲しかったとはいえ、本作はビジネス的に申し分のないポジションに落ち着くことになるのだろう。ちなみにソニーは現在、2023年1月に、同じく『スパイダーマン』シリーズのヴィランを実写映画化する『クレイヴン・ザ・ハンター(原題)』の北米公開を予定している。

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