負のグルーヴ感に満ちた150分の地獄めぐり 最後まで目が離せない『ナイトメア・アリー』

150分の地獄めぐり『ナイトメア・アリー』

 こうしたビジュアル面の圧倒的な強さ、そしてサスペンスとしての強度があるからこそ、オチが分かっていても最後まで目が離せない。エンドロールに入るころには思わず「格闘技マンガで時おり登場する、『見えているけど避けられない攻撃』ってこういうことかもしれん……」と劇場で唸った。ギレルモの手腕は達人の域に入っている。特に後半の幽霊を使ったギミックは、ホラー映画を作り続けてきたギレルモだからこそできる手触りがあった。あの絶妙な“作り物”感は、異界の存在を撮りまくっていないとできない。

 これはどう頑張っても幸せになれない男が、よりにもよって一番間違った方法で成功しようとする物語だ。その姿は滑稽で愚かにも見えるが、どこかで「自分もこういう時があるよなァ」と身につまされるし、哀しみがあり、背中に冷たいものが走る。特にラストシーン、某テキーラ歌舞伎役者の金言「出かけるのを、やめなさい」がフラッシュバックする完璧な演技には震えた。実際、私は映画を観終わった後に焼鳥屋で痛飲するつもりだったが、「ああはなりたくねぇなァ」という気持ちから1杯でやめて帰ってきたのだから。そんなわけで本作は健康にイイ映画だとも言える。ブラッドリーの熱演が光り、ギレルモの演出が冴えわたる、負のグルーヴ感に満ちた150分の地獄めぐり。身を任せる価値は十分にあると言えるだろう。

■公開情報
『ナイトメア・アリー』
3月25日(金)全国公開
監督:ギレルモ・デル・トロ
出演:ブラッドリー・クーパー、ケイト・ブランシェット、トニ・コレット、ウィレム・デフォー、リチャード・ジェンキンス、ルーニー・マーラ、ロン・パールマン、メアリー・スティーンバージェン、デヴィッド・ストラザーンほか
配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
(c)2021 20th Century Studios. All rights reserved.
公式サイト:https://searchlightpictures.jp/nightmare_alley
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