雪衣は視聴者の分身? 『カムカムエヴリバディ』で感じる朝ドラが持つフィクションの力

 終わりが迫りつつある『カムカムエヴリバディ』(NHK総合、以下『カムカム』)だが、筆者にとって本作は、時間の手触りが感じられる連続テレビ小説(以下、朝ドラ)だ。

 3人のヒロインを通して100年の物語を描く本作は、日本でラジオ放送が始まった1925年に安子(上白石萌音)が生まれる場面から始まり、娘のるい(深津絵里)、孫のひなた(川栄李奈)へと物語が引き継がれていく。

 現在はひなたの物語が大詰めを迎えている。条映太泰映画村で働くひなたは、外国人ツアー企画を提案するため、幼少期に挫折した英会話に改めて挑戦するが、3カ月コースで入った英会話スクールでは良い成果を得られない。

 一方、るいは、ひなたがラジオを聞かなくなって以降も、毎朝、NHKのラジオ英語講座を聴き続けていた。年月にして17年間、番組を聴き続けていたるいは外国人客とやりとりできるくらい英語が堪能になっていた。

 コミカルでさらっとしたやりとりだが、ひなたが子供から大人へと成長していく物語の裏側で、回転焼きを作りながら子供たちを育て、毎朝、ラジオで英会話講座を聴いていたるいの生きてきた「時間の痕跡」が一瞬、垣間見えたように感じた。

 るいがラジオの英会話講座を聞き続けていたエピソードのような、時間を感じさせる場面が『カムカム』には多い。

 かつてのライバルで友人だったトランペット奏者・トミー北沢(早乙女太一)のCDをずっと買い続けている父・錠一郎(オダギリジョー)。子供の頃から小夜子(新川優愛)に片思いしている弟・桃太郎(青木柚)。

 付き合って年月が経つが、なかなか状況が進展しないという恋愛も本作では繰り返し登場する。

 1日1日で起きることは代わり映えのしない小さな出来事だが、それが1年、10年、20年と続いていくと大きな意味を持つようになる。特に片思いのような一方的な感情が相手に届かないという状態が何年も続くと、そこに巨大な情念の渦のようなものが生まれてしまう。長い時間の中で時代と人間関係の変化を紡いできた『カムカム』は、小さな物語の中で燻っていたわだまかりの連鎖が、やがて大きな出来事へと修練していく。そのピークとなったのが第20週だ。

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