『ドラえもん』が映画館に帰ってきた喜び 子供も大人も虜にする作画と映像表現

 今や、日本で最高峰の作画・映像表現をほこるアニメ映画の1つが『ドラえもん』シリーズだ。というと、少し驚きの声もあがるだろうか。だが、近年公開されるアニメ映画をたくさん鑑賞している中で『ドラえもん』を超える作画・映像表現を発揮した作品はなかなかお目にかかれない。今回は『映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争(リトルスターウォーズ) 2021』を通して、その挑戦的な映像手法について考えていきたい。

 『映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争2021』は、3月5日に公開されたドラえもん映画の新作だ。1985年に公開された『映画ドラえもん のび太の宇宙小戦争』のリメイク作品であり、本来は2021年の3月に公開予定だったが、コロナ禍による緊急事態宣言の影響もあり、丸1年公開が延期された。

 本作は旧作の時点で、特にその冒頭の作り込みがうまく、何度も唸らされた。物語はどこかの惑星で大統領がロケットで緊急脱出するところから始まる、壮大なスケールのお話だ。そして緊迫感あふれるスタートから一転して、のび太とスネ夫、ジャイアンなどがミニチュアを使ってSF映画の撮影をしている場面へ。ミニチュアのセットの中にのび太が入ることで、宇宙スケールのスタートから日常の描写へと話が移る。

 ここで小さな異星人たちの惑星を舞台にした、政治劇を交えた内戦が起きていることに接続している。これがもしも、普通のサイズの異星人の戦いであったら、このお話も宇宙を舞台にした、よくある戦争のSFドラマになってしまう。さらに、そこに巻き込まれていくのび太たちも、本来小学生の子どもということを考えると、観客である小さな子どもからも、少し過酷な体験に感じられるのではないだろうか。

 この小さな異星人であるパピたちの戦争を、冒頭からミニチュアによる宇宙戦争映画や、しずかちゃんの人形を使ったメルヘンな映画を撮影することで、一種の“ごっこ遊び”のように、気軽に鑑賞できるような工夫が凝らされている。ただし、その内戦はあくまでも本物の内戦であり、のび太たちが巻き込まれる戦いはごっこ遊びなどではなく、シリアスなものとなる。この戦争という重いテーマを扱う上でのバランス感覚が、子ども向け作品として絶妙だと感じられた。

 新作ではしずかちゃんとの人形を使った映画撮影はカットされ、物語もスピーディーなものとなった。これは30年ほど前に比べて、映画のスピードがアップしていることも関係しているだろう。

 一方でパピと出会い、スモールライトでのび太たちも小さくなり、世界を楽しむ描写はさらに増している。ここでは相対的に大きくなったメロンなどの果物を楽しんで食べている様子や、ラジコンカーに乗って、荒野を走り楽しむ様がイキイキと感じられ、観客としてもワクワクする描写だった。セットをバギーが駆け回るシーンは『STAND BY ME ドラえもん』などを制作した白組がCGを制作しており、実際の映画撮影の様子を感じ取れるような描写だ。

 日常にあるものが大きくなる感覚を味わうことで、いつもと違う非日常を楽しみつつも、日常の描写とこれから起こる戦争へ参加する接続として、上手さを感じた。

 近年のドラえもん映画を観ていてハッとさせられるのが、キャラクター描写だ。初めて映画館で映画を観る児童・幼児もいるであろうドラえもんシリーズは、過激な表現は避けなければいけない。一方でリアルで緻密な表現を重視しすぎると、子どもたちが退屈に感じられてしまう可能性もある。各キャラクターたちは子どもたちにもわかりやすいように、その時の感情に対して大きなリアクションをしながらも、それがギャグになりすぎない絶妙で丁寧な作画技術が今作でも光った。

 そのキャラクター描写は、例えばしずかちゃんの日常的な描写に見える可愛らしさなどにも代表されるだろう。ジャイアンなどと異なり戦いを好まない普通の女の子ですら、戦うことを選ばざるを得ない境遇に陥る姿を描いている。また今作ではスネ夫が特に注目されているが、戦争となり恐怖に震える姿は、より等身大の少年らしさを感じさせる。単に勇ましい姿以外を描き出すことで、戦争の恐怖を観客である子どもたちにも感じさせることに成功している。

 その子どもにもわかりやすい描き方は、戦闘描写でも同様だ。例えば宇宙での戦闘機との戦いにおいても、高速で動き回るミサイルを描いている。これは『超時空要塞マクロス』などで披露された、通称板野サーカスと呼ばれる作画技術を意識していると思われるが、ただ単に早く力強いだけでなく、同時に見やすい。確かに『超時空要塞マクロス』などで披露された板野サーカスは、技術的にも文句なしの超一流の作画技術だが、あくまでも大人のアニメファン向けの作品だからこそ成立するものだろう。それをアニメ映画に見慣れない小さな子どもでも見やすいように作画しながらも、目の肥えたアニメファンでも楽しめる技術を披露する手腕に恐れ入った。

 その作画・映像演出などの工夫のみならず、しっかりと子どもに向けられたメッセージも忘れていない。独裁者であるギルモア将軍に対するパピ大統領の演説は、今の世界情勢もあり多くの人の心に響いたのではないだろうか。もちろん公開時期がずれたこともあり、完全な偶然ではあるが、これも映画公開の妙というものだろう。この名シーンは子ども向けの『チャップリンの独裁者』であり、大人になっても印象に残ったシーンとして挙げる子どもたちも多いと信じたい。

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