『ハリー・ポッターと謎のプリンス』でハリーと正面対決 ドラコ・マルフォイについて考察
それなのに、シリーズを追うごとに周囲が彼らの対立をけしかけるため、“ライバル”になっていた。『秘密の部屋』ではスネイプ先生がハリーと一騎打ちをさせ、『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人』ではハグリッドの愛するヒッポグリフに怪我を負わされたことでひと騒動が巻き起こった。ドラコは『賢者の石』でもハグリッドの小屋までやってきていたし、「本当は自分も一緒になって魔法動物を見たかったのではないか」とか「ハリーとハグリッドに認めらたくて自分もヒッポグリフ乗れるぜアピールしていたのかな」などと思うと、友達になるアプローチが全て裏目に出てしまっていて悲しい。
そんな彼も、だんだん学年が上がるにつれて周囲のスリザリン生の邪悪さも増してきて、以前のような絡み方もしづらくなったのか、ハリーとの距離が出来始める。加えてヴォルデモートも復活したため、いよいよマルフォイ家はサポーターとして立場をはっきりとさせなければいけなくなった。ドラコにとっても例外ではない。そんな流れのなか、『謎のプリンス』で彼が重荷を背負ったまま、ついにハリーと“本当の”正面対決をすることになってしまった。これまでのような“ライバル”としてではなく、“敵”として。
『謎のプリンス』はドラコの精神や感情の揺れがシリーズで最も顕著に描かれている作品だ。彼はホグワーツ特急で自分を盗み聞きしていたハリーを見つけ、石にすると「父の分だ」と言って蹴りとばす。このシーンからも、すでに暴力を辞さないほど彼を敵視していることがわかるし、暗殺の命令を「大きな名誉」として認識している。しかし、学校生活が進むにつれて彼の精神状態は悪くなる一方だ。
「姿をくらますキャビネット」を使って、ノクターン横丁にある「ボージン・アンド・バークス」から死喰い人を城内に引き入れる命を受けた彼は、キャビネットが故障しているのでずっと修理をすることになる。その間に、リンゴや鳥を用いて移動実験を繰り返すが、鳥が死骸になっていた姿を見て、泣く。そこから、彼の命を奪うことへの抵抗や、生物を愛でる純粋さが窺えるのだ。顔色が悪くなりながら、同級生のケイティを呪ったり、毒入りのチョコレートを作ったりする。スネイプには強気でいるが、もう本人は心底イヤなんだろう。疲労していく16歳の彼の精神は、本作で観ていて一番辛いものかもしれない。
そして、トイレで泣くドラコ(これまでもよくこうして泣いていたんだろう)をハリーが見つけてしまう。手負いの獣のように、自分の弱さや真実を見せないようにハリーを攻撃するが、ハリーの「セクタムセンプラ」という相手を切り刻む呪文を受けたことで血塗れになって倒れてしまった。駆けつけたスネイプ先生によって傷は癒え、のちにダンブルドアと対峙する。殺さなければ、自分が殺される。そんな極限の精神状態でも、ドラコは校長の殺害を躊躇してしまうのであった。
本作終盤の一連のシークエンスで、カメラが追うのはドラコの表情である。ついにホグワーツ内部に侵入した死喰い人ら(主にベラトリックス)が食堂を破壊する様子を、ショックを受けたまま見ているしかない彼。森の中を歩く時も、彼の緊迫した表情にフォーカスがあたり、ハリーが一向に追いついて叫んだ時も、振り返ったのはスネイプとドラコだけなのだ。そしてベラトリックスがハグリッドの小屋を燃やす様子に、再びショックを受ける。ここで映画の見せ方として重要視されているのは、主人公であるハリーの感情より、ドラコの心情表現なのである。そしてスネイプは、そんな彼とハリーを対峙させないためにも、ドラコを逃すのであった。
もう、友達になりたかったあの頃には戻れない。決定的な出来事が起きてしまった『謎のプリンス』だが、完結編となる『死の秘宝』では、今度はハリーが危機的な状況に陥ってしまう。その時、ドラコがどんな行動を起こすか、見守ってほしい。
■放送情報
『ハリー・ポッターと謎のプリンス』
TBS系にて、3月21日(月)20:30〜放送
監督:デヴィッド・イェーツ
出演:ダニエル・ラドクリフ、ルパート・グリント、エマ・ワトソンほか
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