『カムカムエヴリバディ』は“今ここにある奇跡”を慈しむ物語 算太と稔の再登場に寄せて

 誰しも痛みや苦味を抱えて生きている。それでも人生は続いていく。そのときは挫折や失敗だと思えることも、「それがあったからこそ今がある」と思える日がきっとくる。運命のいたずらによって不幸に見舞われたとしても、自分の意思で幸福へと反転させることができる。自分で決めて歩んだ道はやがて「ひなたの道」になる。

 算太に導かれ、錠一郎、ひなた、桃太郎とともに岡山に里帰りしたるいは、勇(目黒祐樹)と雪衣(多岐川裕美)に再会し、定一(世良公則)の息子・健一(世良公則)の話を聞き、40年以上封印してきた母・安子との関係に対峙しはじめる。かつて安子とともに過ごした部屋で、稔の形見である英語辞書に触れながら、るいは決意しているように見えた。「母と会わなければ」と。

 稔の五十周忌であり、終戦の年に亡くなった多くの人々の五十周忌にあたる1994年のお盆、その8月15日。るいは錠一郎とともに、かつて両親が愛を誓い合い、母・安子が赤子のるいを背負いながら父・稔の戦死の報せを受けて地面に顔を埋めた神社を訪れた。るいの決意が稔の“魂”を呼び寄せる。いま、るいは、父が祈り願った世界を生きている。ひなたの道を歩いている。だから、もう安子に会いに行ってもいいのではないか。るいの背中に、稔の志が「最後の一押し」を添えた。

 その頃ひなたは古い段ボールを開け、安子とるいが学んだラジオ英語講座のテキストを見つける。平川唯一(さだまさし)によるラジオ英語講座に込められた願いと、終戦記念日正午のサイレンと、るいと稔の“邂逅”が交差する。

 生きていると、ときどき形のない何かに突き動かされるのを感じることがある。『カムカムエヴリバディ』の100年の物語をつなぎ、動かしているのは「魂」や「志」という名の糸なのかもしれない。それは「なみ縫い」のように表に現れたり、裏に隠れたりしながら、縁(えにし)を縫い合わせる。るいもひなたも、小さな奇跡の積み重なりと縁のなかで、答えを見つけたようだ。物語はいよいよ、クライマックスへと走り出した。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
※土曜は1週間を振り返り
出演:上白石萌音、深津絵里、川栄李奈ほか
脚本:藤本有紀
制作統括:堀之内礼二郎、櫻井賢
音楽:金子隆博
主題歌:AI「アルデバラン」
プロデューサー:葛西勇也・橋本果奈
演出:安達もじり、橋爪紳一朗、松岡一史、深川貴志、松岡一史、二見大輔、泉並敬眞ほか
写真提供=NHK

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