『ファイトソング』清原果耶、2年間の月日を巧みに表現 空手家の設定も活かされる形に

 花枝(清原果耶)と芦田(間宮祥太朗)の“取り組み”が終わり、花枝は耳の手術に臨み、芦田は曲を完成させる。そして一気に2年の月日が流れた3月8日放送の『ファイトソング』(TBS系)第9話。

 花枝と芦田の2年ぶりの再会シーンから始まり、時間を少し遡ってそれに至るまでの流れが描写されていく。手術を経て耳が聞こえなくなった花枝が、仕事を頑張りながら空手にふたたび打ち込む姿、アーティストとして復活を遂げた芦田。そして、意を決して花枝に想いを告げようとする慎吾(菊池風磨)。

 まず今回のエピソードに入る前までは、はたして花枝の耳が聞こえなくなるのかどうかというのがひとつの焦点になっていた。それはあえて語られずとも、序盤のシーンの描写で明白になる。振動型の目覚まし時計で目を覚まし、ランニングの際にはしきりに後ろを気にしながら、それでも近付いてきた自転車のベルに気が付かない。葉子(石田ひかり)と同じように唇の動きを読む術を身につけた花枝は、会話のシーンでは対面する相手の口元を見つめ、視線を少し上に動かして目を合わせてから話し始める。もっとも、2年の月日が流れても誰も手話を会得していない点は少々違和感を抱いてしまうのだが。

 それでも思わぬかたちで活かされていたのは、花枝が空手選手であるという設定だ。かつて通っていた道場を外から眺め、師範の高田(高田延彦)に誘われて子供たちに教えるようになる花枝。このやり取りでの「私耳聞こえなくて」と不安げに伝える花枝に対して、「だからなんだよ」と一言だけで受け入れる高田の姿もさることながら、「押忍」というひとつの言葉のやり取りだけで意思疎通が成立し、相手の表情の変化をもって感情を読み解くことができるという世界。第1話からこれといって大きな役割を持たなかった設定の機能としては充分すぎるぐらいだ。

 ちなみに花枝がふたたび空手に挑戦する姿を見て、ふと頭をよぎるのはちょうど現実世界で行われているパラリンピック競技大会であるが、聴覚障がい者は出場資格の要件に含まれていない。代わりに聴覚障がい者にはデフリンピックという専門の大会が存在しており、ここにはもちろん空手競技もある。あまり大々的に取り上げられることはないが、1924年から始まった歴史ある大会で(パラリンピックは1960年が最初だ)、次の開催は今年5月にブラジルで行われる。その次は2025年で、現在日本への招致活動が盛んになっている。ドラマの時間軸が2024年に移動した以上、花枝がそこを目指すという流れがあっても不思議ではない。

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