『カムカム』“ぶんちゃん”呼びの幸せと8年後のほろ苦い現実 暗闇の中で五十嵐は何を見る
それでも、ひなたは相変わらず実家住まいで母親に起こされていた。夢の中で繰り広げられた“ひなた劇場”のように、現実はうまくいかない。あれから8年が経っていたものの、五十嵐は『隠れ里の決闘』が大ヒットしたにもかかわらず、それ以来セリフも役名も貰えず、相変わらず大部屋俳優として日々を過ごしていた。何とも世知辛いし、あのプロポーズからそれほどの時間が流れていた間、年を重ねるごとに感じてきたであろうプレッシャーのことを思うと、胸が痛む。いまだに『破天荒将軍』で切られ役をやっている。そんな五十嵐が大部屋俳優から脱却できていなかったのには、実は彼自身の信念が関わっていた。
「言っただろう、俺は時代劇以外はやらない。その志は変えたくないんだ」
映画を救うために映画村が作られた当初は、その収益を時代劇の制作費に回してたくさんの作品が作られてきた。しかし、今やその映画村すら客足が遠のき、運送や美術にコストがっかかる時代劇は、スポンサーに敬遠されるようになってしまった。8年前まであれほどコスパがいいと量産されていたテレビ時代劇も、衰退の一途を辿っている。そんな中、すみれ(安達祐実)は例の茶道家の役があたったのか、今や『茶道家 水無月ぼたんの事件簿』という人気テレビシリーズの看板女優に返り咲いた。五十嵐が「やりたい!」と言って努力をしていたのに対し、「やりたくない!」と努力を拒んでいたすみれが、成功した未来図もビタースウィートである。
しかし、すみれは映画村の劇やら茶道家の役やら、時々自分のプライドを捨ててでも女優生命を継続させるために新しいことに挑戦してきた。そこが、彼女と五十嵐の差異となり、8年後の今、結果として表れているのだ。五十嵐はひなたにも申し訳なさそうに、少し距離を置くようになっている。彼の現在地は、まさに“暗闇の中”だ。そんな彼が、すみれのように、暗闇の中でしか、見えぬものに気づく日は来るのだろうか。
■放送情報
NHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
※土曜は1週間を振り返り
出演:上白石萌音、深津絵里、川栄李奈ほか
脚本:藤本有紀
制作統括:堀之内礼二郎、櫻井賢
音楽:金子隆博
主題歌:AI「アルデバラン」
プロデューサー:葛西勇也・橋本果奈
演出:安達もじり、橋爪紳一朗、松岡一史、深川貴志、松岡一史、二見大輔、泉並敬眞ほか
写真提供=NHK