『カムカム』“ぶんちゃん”呼びの幸せと8年後のほろ苦い現実 暗闇の中で五十嵐は何を見る

「寂しいだろ、バカ」

 五十嵐(本郷奏多)が素直になったおかげで、ひなた(川栄李奈)もすっかり自分の気持ちに向き合い、素直になったみたいだ。どれほどの時間が経ったかわからないが、あれだけ憎まれ口を叩いていたひなたが「ぶんちゃん」と語尾にハートマークをつけて、五十嵐にデレデレになっている。「いつの間に!?」と、2人の付き合いたての頃を見られなかったのが少し残念だが、『カムカムエヴリバディ』(NHK総合)第85話は、この“いつの間に”が立て続く。

 伊織という役とセリフをもらった五十嵐は、ついに封切りとなった『妖術七変化!隠れ里の決闘』をひなたと共に観に行く。オーディション前にオリジナル作を観に行った時と比べて、変わった2人の関係性。伊織役のおかげか、報酬も普段より良かったのだろう。今回は、五十嵐がちゃんと自分のためにポップコーンを買えている。そしてスクリーンに映る自分、観客の反響。エンドロールに流れる自分の名前。2人の胸がいっぱいになるのが、表情からも伝わる。『カムカム』ひなた編は、テーマが時代劇ということもあるが、映画作りの過程やそれに関わる者たちの心情を丁寧に捉えているのが印象的だ。

 そして順調に進んでいく五十嵐とひなたの交際。大月家の食卓にもすっかり馴染んだ五十嵐は、近所でやっていた縁日にひなたと2人、仲良く浴衣を着て遊びにいく。そこで、風鈴を買ってあげるのだ。錠一郎(オダギリジョー)とるい(深津絵里)のやりとりを彷彿とさせたのも束の間、五十嵐はひなたにコンテストの際に演じた侍の台詞を口にする。

「拙者、家禄も僅か。主君の覚えもめでたからず。されど……そなたを幸せにしたい」

 お金なんかないし、人望だってそんなにない。でも、あなたを幸せにしたい。オーディションでひなたが演じる茶屋の娘を暴漢から守った侍を演じた五十嵐が、それを用いてプロポーズするとは。ひなたみたいに、「文ちゃ~ん!」と思わずテレビに向かって叫んでしまう。

 しかし、『カムカム』で最初から最後まで“甘い”のはあんこだけ。挿入されるオープニング曲の「アルデバラン」のビタースウィートさが、それから突如はじまる8年後の物語にやはり影を落としていた。なんと、舞台は1992年。ひなたは27歳に、五十嵐は29歳になっていた。あの桃太郎もすっかりイケメン高校生になり、今旬の注目俳優、青木柚が演じている。

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