『ファイトソング』が描く“人に恋する喜び” 「スタートライン」が切なさを膨らませる

 2020年の新型コロナウイルスのパンデミックによって大打撃を受けたのはスポーツと音楽を筆頭とするライブ系のエンタメ業界だったが、『ファイトソング』が挫折したスポーツ選手とミュージシャンの話になると知った時には、とても象徴的だと感じた。

 事故と病気が続けざまに襲ってくる花枝の状況も「作り込み過ぎだ」と当初は感じたが、コロナ禍に入り「病気や死」に対する距離感が大きく変わった私たちの現実を映しているようにも見える。ドラマチックに作り込まれた人物造形の背後には今、私たちが直面している苦しい現実が見え隠れする。だからこそ、花枝と春樹を見ていると切ない気持ちになる。

 ピアノバラードにアレンジされた「STAR TRAIN」には、1年遅れのオリパラが終わった後もコロナ禍が続き、閉塞感が覆う東京の疲弊した空気が込められているように感じた。だからこそ、この曲が“スタートライン”なのだろう。

間宮祥太朗が歌う「スタートライン」未公開カット編集版『ファイトソング』【TBS】

 第1話で「これぞ火曜ドラマ」というキュンキュンするシチュエーションを描ききった『ファイトソング』だが、第2話からは岡田惠和が得意とするラブコメディへと変わっていく。

 いい曲を書けないと事務所から契約が切られてしまう春樹は、曲を作るために「恋する気持ち」を知りたいので「2カ月だけ付き合ってもらえないか?」と花枝に提案する。一方、花枝は交通事故の時に見つかった聴神経腫瘍を摘出することになる。手術に失敗すれば耳が聴こえなくなるかもしれない花枝は「思い出を作っておいた方がいいんじゃないかな」という医師の意見を聞いて、春樹と付き合うことにする。

 本作は恋愛ドラマというよりは、人に恋する喜びをゼロから発見していくラブコメディだ。クールな視線で現実を見つめながらも、そこで生まれる恋のようなものをついつい楽しんでしまう花枝の距離感は、ドラマ『最後から二番目の恋』(フジテレビ系)などでも描かれた岡田惠和が得意とする人物描写だ。何より落ち着いた口調で話す清原果耶の芝居と相性が良く、彼女の魅力を活かしたシチュエーションとなっている。

 恋人を演じながら、そのシチュエーション自体を楽しむ花枝と春樹の姿は、テレビドラマというフィクションの反映にも感じる。先が見えない苦しい時代が続くが、恋をしている瞬間だけは不安を忘れて楽しく過ごせる。『ファイトソング』はそういうドラマになってくれるはずだ。

■放送情報
火曜ドラマ『ファイトソング』
TBS系にて、毎週火曜22:00〜22:57放送
出演:清原果耶、間宮祥太朗、菊池風磨、東啓介、藤原さくら、若林時英、窪塚愛流、莉子栗山千明、石田ひかり、橋本じゅん、戸次重幸、 稲森いずみ
脚本:岡田惠和
プロデューサー:武田梓、岩崎愛奈
演出:岡本伸吾、石井康晴、村尾嘉昭
編成:宮崎真佐子、中西真央
製作:TBSスパークル、TBS
(c)TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/fight_song_tbs2022/
公式Twitter:@fightsong_tbs
公式Instagram:fightsong_tbs 

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