安田顕がいつも以上の怪演 『しもべえ』は現代おじさんの新しいロールモデルを示す?

 原作は『ころがし涼太』(日本文芸社)や『工業哀歌バレーボーイズ』(講談社、以下『バレーボーイズ』)などで知られる村田ひろゆき。バレーボールのことは1ミリも描かれず、毎日飽きることなくエロいことばかり考えている男子高校生たちのどうしようもない日常を描いた『バレーボーイズ』を読んでいた身としては、村田ひろゆきの作品が2022年にNHKでドラマ化されるなんて信じられない思いだ(たまに宮本と虎子の泣ける話があった)。

 全6話の短編が原作ということもあって、ドラマは辰馬や多田の存在などオリジナルの要素が多い。なにより、ユリナのボディガードに徹していた原作のしもべえに比べると、ドラマではユリナの夢を思い出させて、それを陰になり日向になりサポートするという役割が与えられている。その姿は、まさに現代で求められている“理想のおじさん”のような気がしてならない。

 若者のピンチを見かけたら助け、見返りは一切求めない。余計なことは言わず、アドバイスもせず、その代わり自分で考えることを促し、成長できるような環境を整える。そして、そのための障害は全力で排除する。過干渉で自分の考えを押し付ける多田の父親や、生活のため子どもに働かせる辰馬の父親と比べると、しもべえがいかに理想の年長者(おじさん)かよくわかるだろう。チェックのジャケットに鯉口シャツという出で立ちは『男はつらいよ』の車寅次郎へのオマージュだと考えられるが、寅さんも甥の満男にとっては人生の機微を教えてくれる理想のおじさんだった。

 おじさんが青春を謳歌するのもいいが、実は青春はもう過ぎ去っていて戻ってくることはない。おじさんは若者を助ける存在なんだということを『しもべえ』は教えてくれているような気がする。現代のおじさんの新しいロールモデルというのは言い過ぎだろうか。

 オリジナル要素が多いとはいえ、第3話と第4話での描写を見る限り、しもべえの正体などは原作どおりだろう。実生活で高校生の娘を持つ安田は「子を思う親の気持ちを大事に演じたい」と語っていた。(※2)筆者は原作を読んで泣いてしまったのだが、どのようなラストを迎えるのか今から楽しみでならない。ネタバレしても十分楽しめるドラマなので、気になる人は次回までに原作コミックを読んでみるといいと思う。

参考

1.https://realsound.jp/movie/2022/01/post-941498.html
2.「毎日新聞」安田顕『しもべえ』インタビュー記事

■放送情報
ドラマ10『しもべえ』
NHK総合にて、毎週金曜22:00〜22:44放送(全8回)
出演:安田顕、白石聖、金子大地、矢作穂香、内藤秀一郎、矢田亜希子
原作:村田ひろゆき『しもべえ』
脚本:荒木哉仁、遠山絵梨香
音楽:大友良英
制作統括:谷口卓敬(NHK)、小林宙(共同テレビジョン)
演出:山内大典、紙谷楓
写真提供=NHK

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