『ファイトソング』は“ラブコメ”への新しい一手に 自分たちの“恋”の型を探すこと

 しかし、その「恋」の型は本当に全員が求めている形なのだろうか。少なくともドキッやキュンとは縁遠い日々を過ごしてきた花枝と芦田にとっては、ピンとこないもののようだ。強いて言語化するのであれば、思わぬ自分に出会い大きく心が動くこと。

 そう考えると、すでに2人の恋は始まっているようにも思える。芦田は花枝に出会ってすぐ、自分でも驚くような勢いで付き合いを提案する。「そういうのいらないです」と言い放った花枝も、「こういうもの」と押し付けられることに強い拒否感を持っている自分に気づかされる。

 たしかに世間一般的に言われる恋の始まりよりも、この2人の「恋」は温度が低過ぎるかもしれない。だが、自らの感情の高ぶりよりも、相手のリアクションを大事にしながら歩み寄り、自分が作った自分らしさをも超えて相手との繋がり方を模索していく2人のいじらしさ、奥ゆかしさを「恋」と呼ばずになんと言おう。

 夕日を背景にロマンチックなキスと、突発的なタイミングでのムササビジャンプ。どちらに心が動くかは、誰かに決められるものではない。むしろ「こんなことでときめいてしまった」という、2人だけの“ひょんなこと”を見つける日々こそが、愛しいラブストーリーになるのではないか。

 そんな王道の型を外すような技ありな本作を盛り上げているのは、恋愛ビギナーな花枝と芦田に扮する清原果耶と間宮祥太朗の芸の細かい演技力だ。ブワッと溢れる熱い涙と同時に王道“キュン”に拒否感を出すギャップのある演技は、ともすれば矛盾だらけなヒロインに見えてしまうところ。だが、どれも素直な感情として視聴者の共感を呼ぶことができているのが、清原のナチュラルな演技の賜物だろう。

 そして間宮の演じる芦田も言葉数が少ないキャラクターゆえに、何を考えているかわからないと思われそうだが、「ん?」と目を丸くしてみせる顔や「困ったな」と頭をかく仕草、少々猫背で視線のなかなか合わない素振りから、セリフにならない感情の動きが伝わってくる。

 またローテンションな2人の物語を加速させるのは、魅力的なキャラクターたち。ラブコメらしく片思いの大渋滞が起こるが、どんなに周りが焚きつけたとしても、2人なりのペースを守っていく。まるで、この人生をかけた勝負(恋)の当事者は2人であって、周囲はあくまで応援団であると教えてくれるかのように。

 多くの人の「恋」の型を知る努力しながらも、自分たちらしい「恋」を模索していく。限られた試合時間の中で、2人が全力を尽くすことを願ってやまない。でも、手術や仕事の締め切りだけではなく、誰だって人生の試合時間は有限だ。人はみんなアスリートなのだから。『ファイトソング』で描かれるキャラクターたちの奮闘、そして火曜ドラマの挑戦を見守りながら、私たちもそれぞれの真剣勝負を気持ちよく戦い抜こうではないか。

■放送情報
火曜ドラマ『ファイトソング』
TBS系にて、毎週火曜22:00〜22:57放送
出演:清原果耶、間宮祥太朗、菊池風磨、東啓介、藤原さくら、若林時英、窪塚愛流、莉子栗山千明、石田ひかり、橋本じゅん、戸次重幸、 稲森いずみ
脚本:岡田惠和
プロデューサー:武田梓、岩崎愛奈
演出:岡本伸吾、石井康晴、村尾嘉昭
編成:宮崎真佐子、中西真央
製作:TBSスパークル、TBS
(c)TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/fight_song_tbs2022/
公式Twitter:@fightsong_tbs
公式Instagram:fightsong_tbs

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