「『湯あがりスケッチ』穂波の湯あがり日記」第1湯 「憧れの“適当”に近づくために」

 塩谷歩波の『銭湯図解』を原案としたドラマ『湯あがりスケッチ』が2月3日よりひかりTVにて配信された。全8話で構成される本作は、毎話ごとに今も実際に営業している都内の銭湯と、それぞれのエピソードの鍵となる8人の女性が登場し、銭湯のように心温まる物語が紡がれていく。

 主人公・穂波を演じる小川紗良が、“穂波”として執筆した「穂波の湯あがり日記」が到着。各話で穂波が感じたこと、考えたことが、日記形式で綴られている。

第1湯 朋花(伊藤万理華)の“適当さ”への憧れ

 「適当でいいんじゃない?」と彼女は言うけれど、私にはそれがなかなかできない。親友の朋花は学生のころからフットワークが軽くて、自由で、好きなことで生きているような人だった。私とは正反対な彼女の「適当さ」に、私はずっと憧れている。

 私も好きなことで生きようと思って建築を選んだ、はずだった。今でも建築は好きだし、街を歩けばついつい細い裏道に入って、建物のサビやシミをしみじみと眺めてしまう。建物が在り続けた時間とか、そこにいた人々の気配とか、そういうときめきを私も生み出してみたかった。それなのに、気づけば「好き」が足かせになって、がんじがらめになっている。上手に息ができない。私、どうしてここにいるんだっけ?

 そういうとき、朋花は決まって私を連れ出してくれる。「なんか美味しいもん食べようよ」「知らない街行ってみない?」なんていう彼女の気楽さに、私は何度も救われている。性格は全然違うのに、私以上に私のことを知っているから不思議だ。時々突拍子もないことを言い出すけど、そんな彼女の適当さに隣り合うだけで、私の心もふっと軽くなるような気がする。

 今日、朋花が私を連れて行ってくれたのは銭湯だった。銭湯なんていつぶりだろう。高い天井、カポーンと響く桶の音、おばちゃんたちのおしゃべり、白く漂う湯気。たまたま居合わせた名前も知らない人たちと、裸になって、同じお湯に浸かる。ああ、何だかここにいたら、憧れの「適当」にちょっとだけ近づけるような気がする。

■放送情報
『湯あがりスケッチ』
ひかりTVにて、毎週木曜22:00~配信【全8話】
原案:塩谷歩波『銭湯図解』
監督・脚本:中川龍太郎
出演:小川紗良、森崎ウィン、新谷ゆづみ、村上淳、伊藤万理華、安達祐実、臼田あさ美、室井滋、夏子、中田青渚、成海璃子
公式サイト:https://www.hikaritv.net/sp/yuagari-sketch/
公式Twitter:https://twitter.com/yuagari_sketch
特集ページ:https://realsound.jp/movie/2022/02/post-960070.html

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