『花束みたいな恋をした』から1年 有村架純、主演作『前科者』で時代の先頭に

 さて、有村の主演最新作である『前科者』は、昨年11月に放送された『WOWOWオリジナルドラマ 前科者 -新米保護司・阿川佳代-』(WOWOW)の続編にあたるもの。有村演じる保護司・阿川の数年後の姿が描かれている。何かしらの罪を犯して日陰者として生きる人々を、阿川は照らすような存在だ。それも、春の陽光のような真っ直ぐな温かさを感じさせる。これを有村は全身全霊をかけて演じていると思う。阿川の放つ光は、決して柔らかなものばかりではない。保護観察対象者によっては、厳しい言動で立ち向かうことだってある。彼女は、堕ちてしまった人間の“その先”を、身をもって知っているのだ。阿川自身、他者には言えない暗い過去を引きずって生きている人間なのである。

『前科者』(c)2021 香川まさひと・月島冬二・小学館/映画「前科者」製作委員会

 阿川は保護司の仕事に全力な、ハツラツとした女性に思えるが、やがて彼女が浮かべる笑顔の裏にある哀しみが露呈していくことになる。優しさと厳しさを持つ阿川。明るい現在と暗い過去を持つ阿川。彼女の持つ性質を、有村は絶妙なバランス感で演じていると思う。阿川はつねに前を向き、未来に向かって生きている人物だ。彼女が保護司という職を選んだ理由は過去にあり、ときおりのぞかせる厳しさも過去のできごとに起因しているが、道を踏み外してしまった者たちの更生をサポートするというのは、いまこの瞬間を生き、未来を見据えている証。いくら過去に辛い経験をしている人物だとはいえ、ここで“暗さ”を押し出してしまっては、阿川のキャラクターは成立しない。つまり、有村の演技の“明暗”のさじ加減が絶妙なのである。

『前科者』(c)2021 香川まさひと・月島冬二・小学館/映画「前科者」製作委員会

 先行きが不透明なこの時代、暗い気持ちにならざるを得ない瞬間は誰しもあることだろう。しかしその根本の原因は一人ひとり違うはずだ。有村演じる阿川は、自らが苦しみながらも、自分以外の苦しむ者にそっと手を差し出す人間だ。いまの時代の先頭を有村架純が歩いているなら大丈夫ーーそうとさえ思ってしまう好演ぶりである。ちなみに本作は、『ひよっこ』(2017年/NHK総合)で有村とともに夫婦役に扮した磯村勇斗との掛け合いも必見(ネタバレ抵触防止のため詳細は控える)。磯村の演技があってこそ、有村=阿川の放つ光はより際立っている。

■公開・放送・配信情報
『前科者』
【映画版】全国公開中
【ドラマ版】WOWOWオンデマンド、Amazon Prime Videoにて見逃し配信
出演:有村架純、磯村勇斗、若葉竜也、マキタスポーツ、石橋静河、北村有起哉、宇野祥平、リリー・フランキー、木村多江、森田剛
監督・脚本・編集:岸善幸
原作:『前科者』(小学館『ビッグコミックオリジナル』連載)
制作プロダクション:日活・テレビマンユニオン
配給:日活・WOWOW
(c)2021 香川まさひと・月島冬二・小学館/映画「前科者」製作委員会
映画版公式サイト:zenkamono-movie.jp
ドラマ版公式サイト:https://www.wowow.co.jp/drama/original/zenkamono_drama/
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