『カムカム』が描く多様な家族の形 「“娘”をよろしく頼みます」竹村夫婦のあふれる愛

 大月錠一郎(オダギリジョー)とトミー北沢(早乙女太一)によるセッション対決の結果、コンテストの優勝は満場一致で錠一郎に決定した。

 完敗したにもかかわらず、「最っ高やった」とその場にいる誰より満足気なトミーの表情がたまらない。太陽の光を反射して月が輝くように、観客を圧倒する華やかなトミーの演奏は暗い過去を持つ錠一郎だからこそ出せる音を際立てた。そんな彼にベリー(市川実日子)が「あんたも悪くなかったで」と最大限の賛辞を送る。

 錠一郎のデビューLP発売も決定し、『カムカムエヴリバディ』(NHK総合)第55話の冒頭は祝福ムード一色に包まれていた。

 ただ、るい(深津絵里)は錠一郎の優勝を静かに喜びながらも、どこかうわの空。錠一郎との約束を果たす時がついにやって来たからだ。まだ心の準備ができていないまま、るいは錠一郎からプロポーズを受ける。

 気がかりなのは竹村夫妻のこと。これから東京で大々的に売り出される錠一郎と結婚すれば、必然的にクリーニング屋での仕事は辞めることになる。平助(村田雄浩)と和子(濱田マリ)には子どもがいない。跡を継ぐ人がおらず、2人がいずれ竹村クリーニング店を畳んでしまうことをるいは恐れていた。単純に2人と離れるのが寂しいのもあるが、るいは“帰る場所”を失いたくなかったのだ。

 それなのに錠一郎と来たら、いきなり普段着で訪れて「おじさんおばさん、サッチモちゃんを僕にください」と結婚の話を切り出した。2日前の放送で流れた呆れ交じりのナレーションが思い起こされる。錠一郎とはそういう男なのです……。

 これにはるいも怒り心頭。どこの馬の骨かもわからない自分を雇って一からクリーニングの仕事を教えてくれただけではなく、娘のように可愛がってくれた平助と和子への感謝の気持ちが一気に溢れ出した。その厚意を裏切るようなことはできない、そんなるいの罪悪感を2人はとてつもない愛情で取り除いていく。

「もちろんうちらが2人で作った大事な店や。せやけど、そないなもんはただの形や。『るいちゃんみたいなええ子が、いっとき手伝うてくれたなあ』。いつか隠居した時に縁側で2人でそないな話ができたら、うちらはそんで幸せや」

 そう言う和子と顔を見合わせて微笑んだ平助は、「“娘”をよろしく頼みます」と錠一郎に頭を下げた。本当の両親のように娘の門出が嬉しいやら寂しいやら、複雑な心境で今にも泣き出しそうな2人の表情が胸に迫る。

関連記事