櫻井孝宏、“最高の敵役”夏油傑として放った柔らかさと毒々しさ 五条との対話シーンは必見

 なんだかんだ言っても、圧倒的な強さを誇る主人公というのは魅力的だ。だが、弱い敵を倒しているだけではその強さは示せない。魅力的な主人公を描くためには、同じように強く、魅力的な敵役が不可欠なのだ。

 『劇場版 呪術廻戦 0』、幼なじみの祈本里香が強い怨霊となってしまい、奇しくも強大な力を持つこととなってしまった乙骨憂太。彼の前に立ちはだかるのが、呪詛師・夏油傑だ。圧倒的なヴィランでありながら、『呪術廻戦』第2回の人気投票で4位を獲得するほどの人気を持つ最悪の呪詛師・夏油は、スクリーンの中でも「最高の敵役」を体現してみせた。

 呪術を使えない非術師を憎み、呪術師だけの楽園を作ろうともくろむ夏油。ただの人間のことを“猿”と呼んで見下し、自分の役に立たないと見るや即座に殺す冷酷な男だ。表向きは宗教の教祖として信者を集め、その裏では自分に心酔する呪詛師たちを従える圧倒的なカリスマ性も兼ね備えている。呪詛師としての実力も本物で、4人しかいない特級の1人であり、4000体以上の呪いを所持し、総力戦で挑む呪術師側をたった数人の仲間達で追いこむ圧倒的な強さを誇る。

 だが、夏油がただ残忍で強いだけの人物なら、ここまで多くの人の心を掴むことはなかっただろう。夏油は、非術師のことは“猿”と呼んで徹底的に見下す一方で、自分の仲間たちのことを家族と呼んで慈しみ、「クレープを食べたい」などという無邪気なわがままに応えてやったりもする。映画の終盤では、かつての級友であり親友でもあった五条悟を前に「高専の連中まで憎かったわけじゃない」と吐露する。原作漫画を読んでいる人なら、そもそも夏油が離反した理由が、その心の優しさに基づくものだということをよくご存じだろう。

 結果的に選んだ「非術師の殲滅」という手段こそ間違っていたとしても、夏油の根幹には、とても人間らしい情がある。そんな夏油傑をスクリーンに顕現させたのが、声優・櫻井孝宏だ。

 一見、礼儀正しく物腰柔らかな夏油傑のキャラクターが、櫻井の理知的で端正な声質との相性がいいのはもちろん、理性的な語り口に反して狂気的なセリフが生み出す落差はすさまじく、ぞっとするようなグロテスクささえある。実際に耳で聴くそのちぐはぐさには、ある種の快感さえ覚えるほどだ。

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