『カムカムエヴリバディ』に凝縮された人生の葛藤と輝き 藤本有紀脚本の巧みな人物配置

 雪衣もまた、千吉(段田安則)の葬儀の日の場面のみで見れば、「首尾よく雉真家の妻のポジションに納まった女」と言えるかもしれない。実際、雪衣の一言が、るいが安子に疑念を抱く一因となったことも確かだ。でも、第29回において、「クリスマスイヴは自分のことよりもまず人が喜ぶ幸福を心掛ける日」であることを告げるラジオの語りと共に、どこからか差し込む光が、一人暗い台所で料理する雪衣の姿を照らしていた。その姿を見るにつけ、彼女の中にある、勇や算太と同じく、愛する人に決して振り向いてもらえない孤独を、哀しみを、想像せずにはいられない。

 安子は一貫して「ただ当たり前の暮らしがしたいだけ」の「ごく普通の女の子」だった。稔と家族3人で暮らす「当たり前の日常」という夢が叶わなかったために、稔の夢を継いで英語の勉強を続け、橘家の家族の思いを継いでおはぎを作り続けた。全てはるいと共に、日なたの道を見つけて歩いていくために。その道を歩いていたら、道の先でロバートと出会った。安子は、安子を「守る」と言う勇ではなく、彼女を敬い「感服」し、「素晴らしい女性」だと言うロバートを選んだ。そしてそれは、「安子さんと共に生きたい」と言った稔を愛した安子だからこその選択だったのではないか。ロバートのその言葉に対して、安子が初めて「さん付け」をやめたことも印象的だった。

 また、第35回において、雉真家の台所で、橘家伝来のおまじないを英訳してあずきに語り掛ける安子の姿が示しだされたことに、違和感を禁じ得なかったことも確かである。それは、安子が完全に日本の「家」に納まりきれない存在になってしまったことを示していた。

 彼女は彼女らしく、自分の意志を曲げず、ひたむきに生きた。だからこそ当時の、まだ窮屈で「おなごの子だから」「家の面子があるから」できないことが多い日本を出るしかなかった。それが安子という、激動の時代を生きた、大正生まれの女性の半生だった。

 ではるいがこれから生きる1960年代以降はどうなるのか。るい編において、安子並びに雉真家は忌むべき存在でしかない。それでも、岡山を出て大阪に来た日、ミュージカル仕立ての華やかな場面において、日なたの道を踊る彼女の姿、そして、「演奏する人々」と出会うこれからの展開には、「どこの国の音楽でも自由に聞ける。自由に演奏できる。僕らの子供にはそんな世界を生きてほしい。日なたの道を歩いてほしい」という両親の夢がしっかりと根付いているように思う。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4:seven:K30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
※土曜は1週間を振り返り
出演:上白石萌音、深津絵里、川栄李奈ほか
脚本:藤本有紀
制作統括:堀之内礼二郎、櫻井賢
音楽:金子隆博
主題歌:AI「アルデバラン」
プロデューサー:葛西勇也・橋本果奈
演出:安達もじり、橋爪紳一朗、松岡一史、深川貴志、松岡一史、二見大輔、泉並敬眞ほか 
写真提供=NHK

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