『ショップリフターズ・オブ・ザ・ワールド』公開記念、大貫憲章と宇野維正がザ・スミス談議
映画『ショップリフターズ・オブ・ザ・ワールド』の公開記念トークイベントが12月4日に東京・渋谷シネクイントにて開催され、音楽評論家・DJ・イベントクリエイターの大貫憲章と映画・音楽ジャーナリストの宇野維正が登壇した。
1980年代、イギリスのミュージックシーンを席巻したバンド“ザ・スミス”の数々の楽曲と彼らのインタビュー映像を使用し、未来への不安と自分を探して彷徨う刹那を描いた本作。
映画上映後に登壇した大貫は「『全英トップ20』というイギリスのチャートを紹介するラジオ番組があって。イギリスの音楽をそこまでとりあげるというのが、当時としても画期的な番組だったと思うんですが、そこでいろんな音楽とリアルタイムで接することができたというのが自分としては大きかった。そしてそこにザ・スミスがあったので、ある意味で一般の方よりもチャートのアクションと同時に知ることができたわけです」と述懐。ザ・スミスをリアルタイムで知ることができたということもあり、1980年に大貫がスタートさせたロック系クラブイベント「LONDON NITE」でも、「ディス・チャーミング・マン」をはじめ、初期の頃からザ・スミスの曲を流していたそう。
一方の宇野も、「ザ・スミスとザ・キュアーという二つのバンドは、日本だけでなく世界中で今でも特殊な人気があるバンドなんですよ。アメリカの映画とかドラマシリーズなどでも、極端にザ・スミスとか、ザ・キュアーが使われる機会が多くて」と切り出すと、「ザ・スミスにはいろんなレイヤーがあって。モリッシーがアメリカのメキシコ移民にやたら好かれているんです。『アントマン&ワスプ』などメキシコ系の人が出てくる作品では、モリッシーって特別な扱いなんですよね」と指摘。
また、本作でザ・スミス解散のニュースにショックを受ける若者たちが登場することを踏まえ、「今では想像できないと思いますけど、日本では、当時のバンドの解散って雑誌で知ったんですよ。ザ・スミスって一般紙が扱うような知名度のバンドではないので。(イギリスの音楽雑誌)NMEの記事を翻訳で知るという感じで。でも今では、解散のニュースは1秒後には世界中に知れ渡るので、当時はどれだけのどかな時代だったのか、という感じでしたね」と述懐。大貫も「月刊誌は情報が遅いから、リアルタイムではニュースが分からない。だからあなたの言われたことが分かりますよ。クイーンをロンドンで観たときも、レコードが発売されていることも知らなかった。今とは全然違いますよね」とSNS時代の現代との違いを感じたそう。
ザ・スミスの楽曲20曲以上が全編にちりばめられ、メンバーとの関係や、解散について語る若き日のモリッシーの映像が映し出されるところが特徴の本作。この選曲に宇野は、「(ザ・スミスのフロントマンの)モリッシーはなぜオッケーしたんでしょうね。(モリッシーの若き日を描いた映画)『イングランド・イズ・マイン モリッシー, はじまりの物語』では1曲も使われていなかったんですが、とにかくモリッシーは、メキシコ移民やナショナリストなど、とにかく弱者の味方なので。きっとこの映画のコンセプトなどを見て、ファンに寄り添おうとしたんだろうなと。自分を描いたわけじゃなく、ファンのことを描いた映画だから、モリッシーはファンに寄り添おうと思ったんじゃないかと思います」と語った。
さらに大貫が本作について「一夜の物語を描いた映画というと、僕らの世代は『アメリカン・グラフィティ』を思い出しますけど、この映画はあれのザ・スミスバージョンという感じになっているなと感じました」と語ると、宇野も「今は時期的にイベントもなかなかないですけど、映画館の音響でザ・スミスの曲が聴けるというのも、いい経験じゃないかなと思いますね」と観客にメッセージを送った。
■公開情報
『ショップリフターズ・オブ・ザ・ワールド』
TOHOシネマズ シャンテ、渋谷シネクイントほかにて公開中
出演:ヘレナ・ハワード、エラー・コルトレーン、エレナ・カンプーリス、ニック・クラウス、ジェームズ・ブルーア、ジョー・マンガニエロ
監督・脚本:スティーヴン・キジャック
配給:パルコ
2021年/アメリカ=イギリス映画/英語/カラー/シネスコ/91分/原題:Shoplifters of the World/映倫:G
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公式サイト:sotw-movie.com