『セサミストリート』初のアジア系アメリカ人マペット“ジヨン”に託された希望

 人種差別と向き合う上で重要なのは“具体化”である――キャスリーンの語ったメッセージは、ジヨンが初お披露目を果たした11月25日放送回『See Us Coming Together Special』からも伝えられた。

Sesame Street: See Us Coming Together Special

 番組内では、近所の子供たちから「Go back home」と罵られたジヨンが「悲しくて、怖かった」という心境を吐露するシーンがある(「Go back home(故郷に帰れ)」とは、特定の人種に対する差別表現として知られる)。「私はここに居るべきでない気がする」と傷つくジヨンに、日系アメリカ人アランは「僕たちはたくさんのご近所さんに愛されているけれど、時には誰かにひどいことを言われるときもあるよね。そんな時は深呼吸をして、背筋を伸ばして、自分自身と彼らに向かって“それは良くないことだ”って言うんだ」と話す。この一連により、韓国系アメリカ人である彼女が直面する具体的な被差別体験・痛みと、実践的な解決策が提示されていることは、今まさに実生活で差別に苦しむ子供たちの救いとなり得るとともに、周囲の理解を促す役割も果たすだろう。

 その後ジヨンたちは、アジアをルーツとするセサミストリートの住民たちに会いに行く。この場面では、DCコミックスの共同発行人でアメリカン・コミックス作家のジム・リーや、MCU映画史上初となるアジア系ヒーローを描いた『シャン・チー/テン・リングスの伝説』にて主人公を演じたシム・リウ、そしてテニスの大坂なおみ選手が出演。様々なジャンルで世界を舞台に活躍する彼らは、アジア系の子供たちにとって実際のロールモデルとなる存在だ。※5

NaomiOsaka大坂なおみ(@naomiosaka)

 ジヨンの演技者であるキャスリーンは、『セサミストリート』初のアジア系アメリカ人マペットにこんな希望を託しているという。「私の一つの願いは言わずもがな、人種差別とは何かを実態的に教え、子供たちがその存在に気づき、立ち向かうため手助けすることです。一方で、ジヨンが様々な外見の子供がTVに映るのを普通なことにするという願いもあります」※6

 近年では、中国系アメリカ人の主人公が直面する文化的差異とその葛藤が主題となる『フェアウェル』が北京生まれのルル・ワン監督によって手がけられ、今年にはアメリカに移住した韓国人一家の物語『ミナリ』がアカデミー作品賞などにノミネートされた。これらの作品、そしてジヨンのように、多様な人々の姿が“具体的”にスクリーンへ映し出される機会が今後、さらに増えることを期待したい。

※参照
1.STOP AAPI Hate調査報告
2.'Sesame Street' to debut first Asian American muppet on Thanksgiving - CSMonitor.com
https://www.csmonitor.com/The-Culture/TV/2021/1124/Ji-Young-to-make-history-as-first-Asian-American-muppet
3.'Sesame Street' debuts Asian American muppet - YouTube
https://youtu.be/YvMvELAMsRA
'Sesame Street' Debuts Ji-Young, First Asian American Muppet | Time
https://time.com/6117794/sesame-street-ji-young/
4.Sesame Street: The Making of Ji-Young | NextShark Exclusive - YouTube
https://youtu.be/cMf57Q6gURk
5.Sesame Street: See Us Coming Together Special - YouTube
https://youtu.be/hcPXYRDFr-8
6.First Asian American Muppet Arrives on ‘Sesame Street’ - The New York Times
https://www.nytimes.com/2021/11/15/arts/television/new-sesame-street-character-ji-young.html

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