『最愛』と「君に夢中」は絶対にワンセット

――これまで演じてきた中で、一番感情が高ぶったシーンを教えてください。

松下：生田誠容疑者が優（高橋文哉）であることをしっかりと大輝が認識したのが、高速バスを追いかける車内のシーンだったんですけど（第5話）、大輝が山尾（津田健次郎）に対して「生田誠は朝宮優です」と報告する時は、かなりキツかったです。これ以上隠しておけない、黙っておくわけにはいかない。本当に天秤にかけられた状態で、いろんな画が浮かんだんですよね。白川で同じ時間を過ごした9歳の優（柊木陽太）の声や笑った顔が一瞬でフラッシュバックしてきて。その気持ちを抑えて報告しなければいけなかったのが、すごく辛かったです。その後も、優を刑事の立場としてしっかり東京に移送していかなきゃいけないというのは、演じていても苦しかったですし、俳優としては俳優冥利に尽きる素晴らしいシーンをいただいたなと思いました。

――大輝は走るシーンが多いですが、なかでも印象的だったのは？

松下：やっぱり第1話の駅伝ですね。坂道を最後に下って次の仲間にたすきを渡すシーンは、たぶん15回くらいやりました。どのシーンもだいたい1回じゃ終わらなくて、一個一個もちろん苦しかったんですけど、その苦しみも全部役作りに活かせるので。大輝は今36歳ですけど、この10年間で警察官採用試験を受けて、警察学校に通って、捜査一課まで上り詰めて……彼には相当な苦労があったはずなんですよね。ちょっとでもその苦労を味わいたかったので、いい経験でした。

――第6話で、電話をかけてきた梨央（吉高由里子）が歩道橋にいるのを見つけて、後を追いかけるシーンも話題になりました。

松下：あれは18本くらいレールを入れていて、走ったのはたぶん5、6回かな。あの時「勝手に決めんな！」っていうセリフを20回くらい言ったんですよね、いろんな角度から撮らなきゃいけなくて。でも僕、次の日にレコーディングがあったので、喉が「あ、やばいな」と。でも、あれで喉がひらいちゃったみたいで、次の日めっちゃ声が出たんですよ（笑）。だから、今後もレコーディング前の発声に取り入れようかなと思ってます。「勝手に決めんな！」って（笑）。

――（笑）。現場の雰囲気もとても良いと思いますが、なかでも距離が近づいたと感じる共演者はいらっしゃいますか？

松下：（井浦）新さんははじめましてでしたし、僕も本当に尊敬する先輩なので、最初は緊張していたんですけど、どういう方なのかお話を伺いたかったので、僕から率先して話しかけました。今では、ことあるごとに連絡をいただいたりとか、Instagramでコメントのやりとりをしたりとか、すごく楽しく遊んでくれるので、新さんが大好きです。

――宇多田ヒカルさんが歌う主題歌「君に夢中」の＜人生狂わすタイプ＞＜バカになるほど君に夢中＞という歌詞は、大輝の心を代弁しているんじゃないかなとも思えるのですが、曲からインスピレーションを受けることはありましたか？

松下：今回は主題歌の存在がすごく大きくて。僕らもどこで（主題歌が）かかるかなってみんなで想像しながら撮影したり、「今のところで絶対イントロかかるよね」って話したり（笑）。『最愛』と「君に夢中」は絶対にワンセットで、大輝だけじゃなく梨央や加瀬（井浦）、メインで出ている登場人物みんなに当てはまる歌詞だと思います。主題歌が宇多田さんで本当によかったですし、僕自身、この歌に何度も助けられました。常にインスピレーションをもらっているし、いろんな刺激をくれた気がします。

――たとえば、どんな時に助けられたのでしょうか？

松下：僕は今、お芝居だけじゃなく音楽だったり、いろんなことをやらせていただいているので、脳みそがうまく切り替えられないことがあるんです。そんな時、この曲を聴くだけで一気に体中が『最愛』モード、大輝モードになるので、めちゃくちゃ自分の体に浸透してるんだなと実感しますし、いいスイッチングもしてくれる。そういうところで、かなり助けられていますね。

「試されているな」を感じた1年

――2021年は俳優業だけでなく、『ぐるナイ』（日本テレビ系）の企画「グルメチキンレース ゴチになります！」のレギュラー出演、音楽活動でもライブツアーに再デビューと、とてもお忙しかったと思います。

松下：まだまだ試されているな、と思いますね。自分に足りない部分や、自分が目指さなきゃいけないところが、よくわかったような気がします。今回の『最愛』で、またお芝居の難しさを痛感しましたし、ちょっとでもうまくなりたいと思うきっかけをもらいました。音楽に関しても、まだ始まったばかりなので叶えたい夢はたくさんあります。一方で、バラエティの楽しさや難しさもたくさん経験して。いろんな自分を試させてもらえた1年でした。

――「大ブレイク」と言われる機会も多いかと思いますが、今のご自身をどう捉えていらっしゃいますか？

松下：もちろん、たくさんの方が見てくださっているのは嬉しいことですけど、もっともっといろんな自分を知ってほしいと思うし、本当に作品に出会うたびに自分自身が変わっていくんですよね。学ぶことがすごく多いので、どんどんどんどん進化していっている自分がいる。この先もずっと、ちょっとずつ変化していく自分を受け入れて、楽しんで応援してくださる人が1人でも増えたらいいなと思います。だからこそ今の現状に満足することなく、来年、再来年と、自分をアップデートしていきたいです。

――松下さんは役に対してストイックな印象がありますが、お仕事が増えると一つひとつの役作りにかけられる時間が短くなってしまいますよね。そういったところに、もどかしさはないですか？

松下：役が生きていくのって、本当にふとした瞬間なんですよね。僕自身、「リアルに、リアルに」なんて言ってますけど、僕ひとりだけでは絶対にどうにもならなくて。監督や共演者のみなさんと話したり、共演者の方が僕に対して何か振ってくれたことに対して、自然に返した言葉が「今のめっちゃ大輝っぽいね」と言われて、「なるほど、たしかに大輝っぽいかも。（文字を書く仕草をしながら）メモメモ」みたいな。人との関わりでしかお芝居は生まれないから、時間がない中でも、与えられた現場さえあれば、きっと何かが作れると思っています。リアルなものを生み出すのに必要なのは、たぶん時間じゃないんですよね。ひとりでいる時にどれだけ長く時間をかけるかどうかより、現場でどう人と交わって、会話して、何かを見つけるか、という一瞬のほうが大事なんじゃないかなって。

――今お話を伺っていても、テレビやSNSを通して松下さんを見ていても、お忙しい中でも余裕があるように感じるのですが、何か秘訣があるんですか？

松下：あははは（笑）。でも、本当に楽しいことをさせていただいているからだと思いますね。自分のやっていることは、すべて自分がやりたくてやっていること。もちろん忙しい時も、寝れない時もありますけど、こういう自分になりたくて頑張ってきたところもあるので。大変さよりも、全然、楽しさが勝ってますね。今は毎日、すごく楽しくやらせてもらっています。

■放送情報
金曜ドラマ『最愛』
TBS系にて、毎週金曜22:00～22:54放送
出演：吉高由里子、松下洸平、田中みな実、佐久間由衣、高橋文哉、奥野瑛太、岡山天音、薬師丸ひろ子（特別出演）、光石研、酒向芳、津田健次郎、及川光博、井浦新
脚本：奥寺佐渡子、清水友佳子
プロデュース：新井順子
演出：塚原あゆ子
編成：中西真央、東仲恵吾
主題歌：宇多田ヒカル「君に夢中」（ソニー・ミュージックレーベルズ）
製作：TBSスパークル、TBS
(c)TBS