『ホーム・スイート・ホーム・アローン』が投げかけた、ディズニー系列の作品作りの課題
本作の数々のコメディ描写がそれほど良い反応を得られなかったのには、同情すべき点もある。『ホーム・アローン』は公開当時、新鮮な驚きや楽しさを観客に提供することになったが、人気作であるがゆえに何度も観られる機会があり、また多くの映画に影響を与えたことで、その表現は現在までに、ありふれたものと化しているのである。本作がオリジナル版の内容を意識し、その魅力を押さえた企画である限り、なかなかセンセーショナルなものにはなりようがないのだ。
そして、おそらくは家族みんなが楽しめる、クリスマスのファミリー映画として本作が設定されたために、暴力的な表現や辛辣な人間描写がかなり抑えられたものになっていたという点も見逃せない。『ホーム・アローン』は、もともと意欲的な青春映画を撮っていたジョン・ヒューズが脚本を書いた映画であり、そこには牧歌的なコメディ描写のなかにも、子どもが人生で触れる“世界の厳しさ”が、背景に存在していたように感じられる。『ホーム・アローン』の魅力の本質とは、子どもが大人を暴力的にやり込めるという、一種の“野蛮さ”であり、子どもを取り巻く厳しい状況を反転させた“皮肉”ではなかったか。
そして、“放置される子ども”という題材は、90年代初頭よりも経済格差が拡大した現在、笑えないくらいに深刻化しているのではないだろうか。それについては、ディズニー・ワールドの近所に住みながら、けして行くことのできない貧困世帯の子どもたちの現状を描いた『フロリダ・プロジェクト 真夏の魔法』(2017年)が撮られたことが象徴的である。つまり、『ホーム・アローン』をいま、誰もが楽しめ安心できる題材として、90年代と同様に楽しもうとすること自体が、的を外してしまう結果になったのではないか。
アーチー・イェーツ演じる少年が、劇中で視聴するアニメーションは、ディズニーアニメではなく、「ワーナー・ブラザース」の『ルーニー・テューンズ』である。その奇妙なシーンの意図は、このアニメが当時ディズニーの裏で、過激かつスラップスティックな暴力描写で人気を集めていたことに関係しているのではないだろうか。ディズニーもかつて、いまでは差別的な表現や暴力描写だとされる内容を、子どもに提供してきたことは事実だ。しかし、子どもに悪い世界ではなく希望の世界を見せていくことを、時代のなかで選択し、洗練させてきたのもディズニーだったのである。
そう考えると、子どもの反逆的な暴力性を内在させた『ホーム・アローン』は、ある意味、かなりの部分で“反ディズニー”的な作品だったといえるだろう。そのつもりで本作は作られるべきだったし、そうできなかったことの苦悩が、劇中の『ルーニー・テューンズ』の登場に託されているのではないだろうか。
もちろん、現在のディズニーは、アニメーションや実写映画の分野で、多様性の素晴らしさや未来への展望を描く、素晴らしい内容の作品を次々に生み出している。しかし、20世紀スタジオで製作された本作のように、“見落とされる”作品の価値観というのも存在するのではないか。伝統ある映画会社やスタジオを買収することで拡大を続けるディズニーは、今後、そこに目を向ける義務もあるはずである。
■配信情報
『ホーム・スイート・ホーム・アローン』
ディズニープラスにて独占配信中
監督:ダン・メイザー
出演:エリー・ケンパー、ロブ・ディレイニー、アーチー・イェーツ、アイスリング・ボー、ケナン・トンプソン、ティム・シモンズ、ピート・ホームズ
原題:Home Sweet Home Alone
(c)2021 Disney