『メイドの手帖』になぜ、世界中が目を向ける? 妥協をゆるさない作り手たちの克明さ

世界中がなぜ『メイドの手帖』に目を向ける?

 アレックス役のマーガレット・クアリー、そしてポーラ役のアンディ・マクダウェルは実の親子として知られるが、彼女たちが母娘役を演じたことで生まれたシナジーは、本作が“世代間に受け継がれるもの”そして“受け継がれないもの”に焦点を当てる上で重要なポイントとなった。

 アレックス、ポーラの姿から立ち上がるのは、社会の不当な立場に置かれる者――とりわけ女性が負の連鎖に陥ってしまうプロセスである。そして作中に描かれるそのプロセスのリアリティは、本作が原案著者の実体験に基づいていることに由来する。

 原案となったのは、全米ベストセラーになった書籍『メイドの手帖 最低賃金でトイレを掃除し「書くこと」で自らを救ったシングルマザーの物語』。大学に進学し作家を夢見るさなか28歳でシングルマザーとなり、路上生活者を経験したのち、“メイド”となった著者ステファニー・ランドが、自身の経験を記した回想記だ。

 ランドはインタビュー内で次のように語っている。

「シングルマザーたちは自分たちが置かれた状況に多くの非難を向けられ、なかなか人々に共感してもらえず、“援助対象”と見なされにくいのです。彼女たちに2人分(自分と子供)の仕事をすることを求め、支援を得ようとすると責め立てられ……」※3

 女性が一律に“不当に恵まれた存在”として見なされる風潮は、同名小説を原作とした韓国映画『82年生まれ、キム・ジヨン』にも「女はいいよな。旦那に養ってもらって。俺も養ってもらいたいよ」という台詞が登場するように、各国に根付く普遍的な問題だろう。

 そして女性が置かれる社会的立場は、パンデミックによって更に過酷なものとなった。ここ日本でもコロナ禍で雇用状況が悪化しているが、男性に比べ女性により重く負担がかかっている実態がある。※4 また配偶者暴力による女性の自殺件数も増加しており、ひとり親世帯や貧困層にある女性への影響が大きくなっている。※5

 同様の現象が全世界で深刻化するさなか、公開された『メイドの手帖』。現実を描く上で妥協をゆるさないその克明さは、本作が単なる感動作に収束されることを拒む強度となり、観客の目を捉えて離さない特異な作品へと昇華させているのではないだろうか。

 ランドによれば本作の続編となるシーズン2の構想も進んでいるという。「シーズン1は10話あり、私が書いた物語が中心ですが、次のシーズンからは新たなメイドの物語が始まります。有色人の女優を起用してね」「今回のドラマでは、このような戦いをずっと続けている有色人種のストーリーが語られることを望みました。それは私たち全員が耳を傾けなければならないストーリーだからです」(引用:アンディ・マクダウェル、娘とNetflixドラマで初共演。|madameFIGARO.jp)。シーズン2の手帖にはどのような物語が綴られるだろうか、製作実現に期待したい。

※参照

1.‘Maid’, Becoming Netflix’s Biggest Limited-Series, Is A Must-See
https://www.forbes.com/sites/sheenascott/2021/10/24/maid-becoming-netflixs-biggest-limited-series-is-a-must-see/
2.TOP 10 on Netflix in the World on November 16, 2021 • FlixPatrol
https://flixpatrol.com/top10/netflix/
3.ワーキングプアのシングルマザーが厳しい現実を著書「MAID」にまとめベストセラーに : BIG ISSUE ONLINE
https://bigissue-online.jp/archives/1075080165.html
4.2020年版「男女共同参画白書」
5.コロナ禍における自殺の動向に関する分析 緊急レポート(中間報告) │ 調査・研究等 │ 厚生労働大臣指定法人 いのち支える自殺対策推進センター
https://jscp.or.jp/research/kinkyureport_201021.html

■配信情報
『メイドの手帖』
Netflixにて配信中
原作:ステファニー・ランド
製作総指揮:モリー・スミス・メッツラーマーゴット・ロビージョン・ウェルズエリン・ジョントウトム・アカーリー
監督:ジョン・ウェルズ
脚本:モリー・スミス・メッツラー
出演:マーガレット・クアリー、ニック・ロビンソン、アニカ・ノニ・ローズ、トレーシー・ヴィラール、ビリー・バーク、アンディマクダウェル

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