『カムカムエヴリバディ』安子と稔の恋を振り返る ロミジュリ要素はやはり悲恋に向かうか

『カムカム』安子と稔の恋路を振り返る

 それから1941年までの2年間、二人は互いに恋心を募らせていった。安子にとって、稔は新しい世界に踏み入れるきっかけをくれるような存在で、彼の存在あって英語を始めたり、自転車に乗れるようになったりする。一方、稔も安子が英語で「手紙を書いてもいいですか?」と聞いたとき、自分も同じ気持ちだと答えんばかりの表情で「僕も返事を書く」と言うくらい、すでに彼女に気持ちを抱いていた。そして文通を重ね、戦争の気配が強くなるにつれて、二人の関係性も変わっていく。

 先に縁談の話がきた安子は、この段階からすでに稔を諦めようとして最後のお別れデートをしに彼に会いにいく。しかし、稔が持ち前の王子様ムーブをかまして安子を追いかけてきただけでなく、夜更けの橘家に乗り込んで安子の両親に交際の許しまで得ようとまでしたのだ。安子が醒めようと思っていた甘い夢は、まだまだ続くことになる。しかし、それが潰える時がついにきてしまった。

 そのきっかけとなったのが、第12話で描かれた美都里(YOU)との対面。ここでの安子に対する母の非礼さを知ると、稔は怒りをあらわにした。お互いにきた身分相応の縁談話や、美都里が安子に言った「もう息子に会わないで」というセリフは、ロミジュリ恋愛の定番だ。しかし、間に割った父・千吉(段田安則)の冷静な態度が、彼らのロミジュリ恋愛が“定番”でもないことを示す。というのも定番では、特に千吉が後継の息子を容易く失いたくないから、最後まで交際に反対する立場にいることが多い。それなのに「好きにしろ」と言い、「ただし家の名を捨てろ」と交換条件を提示した。加えて、本来なら稔が最初から自発的に家を捨てて安子と一緒になる、と啖呵を切っても良いはずなのに、父に言われて初めてその条件について考えるという描写も、定番のレールから少し外れているように感じさせる。

 そう、ジャズ喫茶も、英語の本も、安子を追いかけて衝動的に乗った列車の切符代も、雉真家の財力があってこそ実現できたものだった。あんなに大人びていたのに、そういった事実に気づけなかった稔。安子のことになると冷静さを欠いてしまう彼から、本当に彼女のことが好きだったんだなという感情が痛いほど伝わるシーンだ。こんなふうに身分不相応の恋を一つ描くにしても、その見せ方の工夫を本作から感じずにはいられない。

 戦争が近づくにつれて、たくさんのものを安子は奪われていった。パーマに砂糖、英字にスポーツ、衣料品に英語講座。そして、稔とともに歩みたいと思った未来。

 「ラジオの講座がなくなったら、覚えた英語も忘れてしまった。稔さんのことも、きっと忘れられます」なんて、悲しいことを言う安子が見ていた長くて甘い夢は、こうして潰えてしまったのだった。稔の父、千吉の言い分ももっともだからこそ、やはりロミジュリ恋愛は悲恋のフラグを回避できないものなのかと考えてしまう。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『カムカムエヴリバディ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
※土曜は1週間を振り返り
出演:上白石萌音、深津絵里、川栄李奈ほか
脚本:藤本有紀
制作統括:堀之内礼二郎、櫻井賢
音楽:金子隆博
主題歌:AI「アルデバラン」
プロデューサー:葛西勇也・橋本果奈
演出:安達もじり、橋爪紳一朗、松岡一史、深川貴志、松岡一史、二見大輔、泉並敬眞ほか 
写真提供=NHK

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