草なぎ剛の“芸能史”が詰まった集大成に 舞台『アルトゥロ・ウイの興隆』での力強い叫び

 アルトゥロ・ウイのシャウトが再びーー草なぎ剛が主演を務める舞台『アルトゥロ・ウイの興隆』が11月14日から横浜市・KAAT神奈川芸術劇場で幕を開けた。

 同作品の初演は2020年1月。演出家・白井晃が手掛けた人気作品で待望の再演が決定。今回は横浜を皮切りに、12月18日からはロームシアター京都、2022年1月9日からは豊洲PITと、3都市で上演期間をたっぷりと設けて帰ってきた。

 本作はドイツの劇作家ベルトルト・ブレヒトが手掛けたもので、ヒトラーが独裁者として上り詰めていく姿をシカゴのギャング団に置き換えて描いた。演出は草なぎと三度目のタッグとなる白井晃。劇中にはジェームス・ブラウンのファンクミュージックを中心に取り入れ、バンドの生演奏と共に届ける。

 鮮やかな赤いスーツ姿で登場したウイ役の草なぎ。鋭い目元に仕上げたメイクがウイらしい。そして体にぴったりと沿うタイトめな衣装を難なく着こなし、ステージを縦横無尽に動き回った。重力を感じさせない小刻みかつ軽やかなステップ、スタンドマイクを手にシャウトする姿には、これまで目にしてきた草なぎの姿、それも大きなステージで歌い・踊ってきた姿が鮮やかに蘇る。

 ウイの権力が増すごとに、客席の視線も少しずつあがっていく構成に心が揺さぶられたが、場面転換のたびにシルクスクリーンに映し出されるナチスの行いを目にしてハッとさせられる。これがブレヒトの提唱する叙事的演劇かと、新たな演劇経験を得る機会になった。

 草なぎを筆頭にキャストたちは役を全うしつつも、ステージに立てたこと、再演が叶ったことへの喜びが声のハリや表情から感じられた。そしてバンドによる生演奏。力強くキレのある演奏を響かせる。どこか清々しさも感じられ、ウイらの叫びを音で表しながらステージをよりエネルギッシュに、熱狂へと導いていた。ストーリーと切り離しても、日々の生活で静かに心に積み重なっていくわだかまりを吹き飛ばすようなパワフルな演奏が清々しい気分にさせてくれる。

関連記事