Apple TV+初のヒット作『テッド・ラッソ』 韓国ドラマ『賢い医師生活』との共通点とは?
『賢い医師生活』との偶然の必然ともいえるような共通点
映画界では、世界の異なる地域で同時多発的に同じようなテーマを持つ作品が生まれることがある。クリエイターは空中に漂う目に見えない時代の空気を察し、人々を蝕む問題や気分を作品として世の中に提示するからだ。ストリーミングサービスの台頭によって世界同時配信が可能になり、ドラマ界にもその流れが訪れている。
40代のメンタルヘルスは、2021年夏に北米西海岸時間の毎週木曜日に配信されていた『テッド・ラッソ』とNetflix配信の韓国ドラマの『賢い医師生活』(以下『賢医』)との偶然の必然ともいえるような繋がりを感じさせた。製作国も配信プラットフォームも違う二作品だが、多くの類似点がある。3シーズン制で企画され、40代の主人公が新天地で仲間の輪を築いていく物語。様々な事情によりシーズン2でとりあえずの完結を迎えた『賢医』は、大学時代からの友人5人組の関係が主軸だが、シーズン2では職業倫理観を通じて各医局に広がる師弟の繋がりが描かれていた。5人以外のキャラクターにも、DV問題、不動産詐欺、経済格差、女性の社会進出、移民問題などが反映され、もしもシーズン3が作られることがあれば、社会問題に切り込んでいくのは避けられないだろう。
『テッド・ラッソ』は、アメフトの監督経験しかないテッドとコーチ・ビアードがイギリスのサッカーチームで切磋琢磨していくなかで、チームメイトやバックオフィス、番記者、地元のパブに集うファンらと絆を結んでいく。コメディと人情ドラマのバランスが心地よく、ありきたりな悪役が登場しない、人間の善意を信じる脚本も二作品に共通している。
どちらの作品にも、現在40代の主人公の青春時代を彩った音楽が、当時と現在を対比させる仕掛けとして登場する。『賢医』では5人の医師がバンドで演奏する懐かしい楽曲がテーマを代弁し、不惑の歳を迎えた彼らの胸に当時とは異なる旋律で響く。『テッド・ラッソ』においては、例えば第11話のエンディングで流れる1997年の有名楽曲に、登場人物が置かれる状況が重ねられている。
アメリカの人気バラエティ番組『サタデー・ナイト・ライブ』のコントライターからキャリアを築いたジェイソン・サダイキスは、10月23日放送回でホストを務める。『賢医』でイクジュン役を演じたチョ・ジョンソクも、放送終了後に韓国版の『サタデー・ナイト・ライブ・コリア』でホストを務めている。
人生におけるイップスと、心に傷を負った人たちの再起
最も共通しているのは、『テッド・ラッソ』が3シーズンをかけて人生におけるイップスとその克服を描こうとし、『賢い医師生活』が心に傷を負い、何かを諦めていた人たちが復活を遂げるまでの道のりを描いているところだ。幼少期の家庭環境によるトラウマ、離婚による自責の念に苦しめられるテッドは『賢医』における産婦人科のソッキョン(キム・デミョン)のようだし、誰にでも分け隔てなく接する“陽キャ”の裏で悩みを抱える姿は、肝胆膵外科医のイクジュン(チョ・ジョンソク)を思わせた。
『テッド・ラッソ』シーズン2は、UCLAのバスケチームのコーチの名言「能力よりも選択の方が、よほど人の本質を表す」で締められている。誰でも人生半ばを過ぎると、分岐点になった選択を悔やみ、安定を失うことを恐れ無難な道を選びがちになる。そんなときに、無防備でむこうみずだった頃の自分が愛した音楽と、言葉もなく隣にいてくれる仲間が再び力をくれることがある。心の健康と賢い選択のために、『テッド・ラッソ』と『賢い医師生活』のシーズン2は、信じることを信じ(Believe in Believe)、世界中の視聴者の背中をそっと撫でてくれたようだ。
■配信情報
『テッド・ラッソ:破天荒コーチがゆく』
Apple TV+にて配信中
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『賢い医師生活』
Netflixにて配信中
写真はtvN公式サイトより