「野球は人生そのものだ」 選手たちが『八月は夜のバッティングセンターで。』で残す金言
野球が好きだ。ろくにプレーをしたことがないが、見ているだけで十分楽しい。ひいきチームの勝ち負けに一喜一憂もするし、選手たちが織りなす人間ドラマに胸を熱くすることもある。プロ野球だけでなく、高校野球も好きだし、今夏初めて甲子園で開催された女子高校野球決勝にも感動させてもらった。
水曜深夜に放送されている『八月の夜はバッティングセンターで。』(テレビ東京)は、バッティングセンターを訪れる女性たちが抱える苦悩を、謎の元プロ野球選手・伊藤智弘(仲村トオル)と“レジェンド選手”たちが解決に導くという風変わりなドラマだ。野球の試合ではなく、野球から得られる人生訓がメインだから、野球を知っているほど面白いが、野球に詳しくなくてもきっと楽しめる。話が進むにつれて、女子野球をドロップアウトした主人公の女子高生、夏葉舞(関水渚)の葛藤が解決に向かっていく構成の妙も光っていた。
エピソードのパターンはほぼ決まっている。バッティングセンターを訪れる女性たち(木南晴夏、堀田茜、武田玲奈、深川麻衣、佐藤仁美、山下リオ、板谷由夏、BEYOOOOONDSの山崎夢羽)は、それぞれ悩みを抱えていた。気持ちよく白球を打ち返してストレス解消しようとするが、どうにもバッティングが上手くいかない。
すると、人のバッティングを見ると、その人が抱える悩みがわかる特技(?)を持つ男、伊藤が声をかける。女性たちは反発するが伊藤は意に介さず、「聞いてみるか? 俺の野球論」「ライフ・イズ・ベースボール」と決め台詞を言うと、場面は一気に緑鮮やかな野球場へ(画角も映画風のスコープサイズになる)。これは伊藤の妄想の世界らしいのだが、ゾーンに入り込む力が強すぎて他人を巻き込んでしまうらしい。なんだその力。
野球場では、悩みの当事者がいきなり野球でピンチの局面に立たされている。オロオロする人もいれば、強気に勝負しようとする人もいるし、まわりが見えなくなる人もいる。ピンチが広がり、どうにもならなくなったとき、登場するのがレジェンド選手だ。舞が驚いて選手名を叫んでくれるのだが、声の抜けが良くて本当に素晴らしい。
レジェンド選手は、ほとんどが引退した名選手たちだが、彼らはスーパープレーを披露するというより、不格好ながらもしぶとい活躍を見せ、悩める人に金言を残して去っていく。「野球」を通じて自分を変えるヒントを得た女性たちは、現実に戻って新しい一歩を踏み出す。野球には人生を変えるヒントがいっぱい詰まっているのだ。
印象に残っているエピソードは、設定の突拍子のなさに度肝を抜かれた一回と伊藤の言葉が沁みた四回だ。それぞれ簡単に紹介してみよう。
一回に登場したのは、社内で同僚の尻拭いばかりさせられて「地雷処理班」と呼ばれている会社員の坂本ゆりこ(木南晴夏)。自分が評価されないことに憤るゆりこは、バッティングセンターでも力いっぱいのスイングを繰り返していてボールがバットに当たらない。
「ライフ・イズ・ベースボール」。伊藤がボールをポーンと投げると、場面は野球場へ。ゆりこはピンチの局面でマウンドを任されるが、どうにもすることができない。敵どころか味方のベンチからも野次が飛び、パニックになるゆりこ。そこへ現れたのが、レジェンド選手、岡島秀樹! 巨人、日本ハム、レッドソックスをはじめ、7球団を渡り歩いた名セットアッパー(中継ぎ投手)だ。彼は淡々とピンチを凌ぐと、ゆりこに「大丈夫、誰かが見てくれている」と一声かける。
雑念を捨てて、与えられたポジションで黙々と仕事を続けていけば、やがて誰にも真似できないようなオーラが出はじめて、誰もが注目せざるを得なくなる。岡島秀樹はそんな投手だった。現実に戻ったゆりこも、徐々に仕事ぶりが後輩たちに知れ渡るようになる。腐らずに自分の仕事をやり遂げていけば、やがて認められるようになるのだろう。