土村芳「いっぱいいっぱいだった」 原作を意識した『ライオンのおやつ』の裏側を語る

 ある島のホスピス「ライオンの家」で人生の最後の日々を生きる29歳の主人公・海野雫。小川糸の同名原作をドラマ化した『ライオンのおやつ』(NHK BSプレミアム)は、死を見つめる主人公の日々の中で、素晴らしい出会い、そして思いがけない出来事が彼女の毎日を彩っていく。雫と周りの人々の姿から、“死”よりも“生”を考えさせられる、あたたかさを感じる物語だ。

 主演の土村芳は、余命を告げられたガン患者である雫役を坊主頭にして挑んだ。本作の脚本監修を務める岡田惠和とは、『この世界の片隅に』(TBS系)以来のタッグとなる。『ライオンのおやつ』の裏側を中心に、本作の直後に撮影したWebムービー、そして公開を控える映画出演作についてなど、昨年30代を迎えた土村の女優としての活躍をインタビューから紐解く。

作品の中に浸かり続けていないとやっていけない

ーー小川糸さんの原作はとても有名な作品です。初めて手に取ったとき、どんな感想を持ちましたか?

土村芳(以下、土村):なんて素敵な時間が流れている本なんだろうと思いました。“死”という絶対的なものが常に身近にあるなか、こんな人生の過ごし方ができるのはとても素敵なことだなって。同時に、雫を演じるのは、すごく覚悟が必要になるなとも考えました。でも、こんなチャンスは滅多にないなと思うくらい、この作品との出会いを感じたので、自分が今持っている全てを出しきろうという思いで参加しました。

ーー作品に入る前と撮影が始まってからの心境はどうでしたか?

土村:撮影に入る前は、どうしてもギリギリまで怖さがありました。撮影に入ってからは、もう必死でした。いっぱいいっぱいだったと思います。家に帰っても何をしていても、ずっと雫と作品のことが頭の中にあって。普段だったらテレビを観たりしているんですが、家に帰ってからの過ごし方が今までとは変わってしまうくらい、他の情報を何も入れずに、どっぷり作品の中に浸かり続けていないとやっていけない、そんな感覚でした。

ーー撮影も相当大変なものだったことが予想できます。

土村:撮影期間は2カ月半で、1話から8話までをランダムに撮っていたので、皆さん大変だったと思います。

ーー雫の心情がだんだん変化していく物語の流れがあるなか、ランダムでいろんな段階の雫の感情を作るのはかなり大変な作業ですよね。

土村:でも、現場で得るものがすごく大きくて、それが残っていくものでもあって。撮影が進んでいくにつれて、自分の中にちゃんと蓄積されていたので、雫の病状の進行具合について体調の加減を考えることはありましたが、気持ちの面に関しては周りの方々に助けていただいたのが大きかったです。

ーー雫を演じる上で、1番大事にしたことはなんでしょう?

土村:やっぱり雫の心の変化ですね。原作では、自分が最期のときを迎えるまで過ごすと決めて、死にに来ていたはずの場所で、そこにいる人たちと触れ合うことによって、少しずつ雫自身、思ってもいなかったような心の変化が描かれていたのが印象的だったので、そういう過程を大切に表現できたらと考えていました。ライオンの家に来るまでの雫から、少しずつ気持ちが自由になっていく様子を、なるべく原作で表現されているくらい繊細に演じられることを意識していたような気がします。

ーー今回、脚本監修で岡田惠和さんが参加されていますが、先日土村さんがゲスト出演された岡田さんのラジオ(NHKFM『岡田惠和 今宵、ロックバーで~ドラマな人々の音楽談議~』6月27日放送回)で、本作についてお話されていましたね。

土村:1話の放送日に合わせての収録だったので、事前に作品を見てくださっていて、すごく良かったですと言っていただけたのが本当に嬉しかったです。また普段なかなか聞けない脚本家という立場からのお話も伺えて、原作として素晴らしい作品を脚本に落とし込む作業の難しさについてなど、色々と勉強になるお話も聞かせていただけました。

ーー岡田さんから「イメージが違った」と言われたそうですね。

土村:実際にお会いしてお話しするのが初めてだったので、「思っていたよりもっと陽な人」って(笑)。私自身、ちょっとおとなしいイメージだったと言われることが多いので、岡田さんが思っていたよりも明るい印象だったみたいです。「この世界の片隅に」でもご一緒させていただいたのですが、あの時はお会いできなかったので、今回ラジオでたくさんお話する時間をいただけて、とても楽しかったです。

関連記事