『映画大好きポンポさん』『漁港の肉子ちゃん』 多種多様な作品揃うアニメ映画の現在地

 『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』や『シン・エヴァンゲリオン劇場版』の大ヒットもあり、興行面を中心に注目度が増しているアニメ映画。その内容や映像技術についても多様な作品が生まれている。

 特に6月公開の作品にはアニメファン以外の方にも注目してほしい作品が多く、アニメ映画の現在地を語る上でも重要な1カ月になった。この記事では6月公開の作品をいくつか振り返りながら、現在のアニメ映画の多様性について考えていく。

『シドニアの騎士 あいつむぐほし』『トゥルーノース』

『シドニアの騎士 あいつむぐほし』(c)弐瓶勉・講談社/東亜重工重力祭運営局

 まずはCGアニメについて考えていこう。ここで紹介するのが『シドニアの騎士 あいつむぐほし』と『トゥルーノース』だ。

 『シドニアの騎士 あいつむぐほし』は弐瓶勉の同名漫画を原作としており、テレビシリーズの完結編となる作品だ。『BLAME!』などの迫力のあるCGアニメを制作してきたポリゴン・ピクチュアズらしく、宇宙を舞台としたSF的な大戦は圧巻の映像となっている。そしてヒロインである白羽衣つむぎは、アメーバなどに近い触手を持ち、全体像は人型の昆虫と形容したくなる外見なのだが、アニメのヒロインらしい”宇宙一の美少女”に見えるように可愛らしく描かれているのも、アニメ表現の強みだろう。

『トゥルーノース』(c)2020 sumimasen

 『トゥルーノース』は日本・インドネシア合作のCGで制作された作品であり、こちらは社会派の側面が強い。実際に北朝鮮から脱北してきた人々に話を聞き、それを基に過酷な収容所生活を描いている。収容所の人々に対する厳しい弾圧の姿と残酷な出来事を描いているが、同時に生きることへの希望も描写されている。印象としては物語は韓国映画の作りに近く、エンタメ性も強く、アニメファンよりも実写映画ファンが強く惹かれる作品と言えるかもしれない。

 シドニアが宇宙を舞台にした架空SF戦記に対して、『トゥルーノース』は現実に根付いた表現が使われている。『トゥルーノース』の清水ハン栄治監督は、CGアニメを選択した理由として各種インタビューで「実写だと生々しくなりすぎる」と発言しているが、アニメ表現の柔らかさや若干頭身を下げるなどの誇張された人物表現によって、厳しい現実のドラマをより見やすい作品としている。

 海外のディズニー&ピクサーのCG作品と比較しよう。海外の作品は近年、実写寄りのリアリティのある表現が目につくようになっており、特に水の表現などは実写と見分けがつかないほどだ。それに比べると上記の作品はCG作品のカクカクとした部分が目立つようにも感じられる。これは予算も含めた制作規模が段違いのために仕方のない現象であるが、かたや宇宙を舞台とした架空SF戦記で、かたやより社会性のあるテーマを生々しく見せないという方向で活用しており、規模の違いをカバーし、表現として卓越したものに昇華させている。

『映画大好きポンポさん』『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』

『映画大好きポンポさん』(c)2020 杉谷庄吾【人間プラモ】/KADOKAWA/映画大好きポンポさん製作委員会

 次に実写のような表現に注目したい。同じ「実写のような表現」といっても、『映画大好きポンポさん』と『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』では、その意味合いが全く異なる。

 『映画大好きポンポさん』は「映画を作るアニメ映画」だ。新人映画監督のジーンと、映画プロデューサーのポンポさんが中心となり、映画制作の現場を描く。ゴダールが用いたジャンプカットなどの多くの実写的な演出方法を駆使しながらも、アニメだからこそできる採光を施した美しい映像、そして狂気をも含む映画制作の過程が多くの観客の心を掴んだ。

 『映画大好きポンポさん』の”実写的”という言葉の意味は、編集技術や演出などの映像の見せ方にある。ポンポさん自身はどう見ても子供にしか見えず、キャラクター造形も漫画原作らしくデフォルメの効いたものとなっており、時に風船のように膨らむなど実写の人間では決してできない、アニメ的な快楽性がとても強い。一方でジャンプカットや、画面を分割するような編集方法などの実写映画でも用いられている表現を活用することで、アニメの快楽性と実写表現の快楽性が融合した作品となっている。

『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』(c)創通・サンライズ

 一方の『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』は、日本を代表するコンテンツでもあるガンダムシリーズの最新作だ。暗い夜の中に散る美しいビームライフルの光や、モビルスーツの迫力、暴力を恐ろしさなども表現しているほか、人物表現もより精巧で生身の人間のように感じられる。

 鑑賞すると「実写映画を見ているようだ」と感じる人が多いだろう。人物表現などもより現実に近い動きを志向しており、キャラクターの等身も俳優のような長身の体型を採用している。中盤に登場する街の様子も、実際にフィリピンのダバオにロケハンに行くことで、現実と全く同じ街並みを背景美術として再現している。一方で宇宙空間やモビルスーツを使用した戦闘シーンなどは実写ではとても予算と手間のかかるシーンであり、アニメだからこそ表現できるものとなっている。

 同じ「実写のような表現」といっても、『映画大好きポンポさん』は人物描写や背景を精巧にするのではなく、アニメ表現を活かしながらも実写演出を参考にした表現。『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』は人物や背景を徹底的に現実に即しながらも、モビルスーツなどのギミックなどでアニメの強みを発揮した表現としている。

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