BLACKPINKからビリー・アイリッシュまで 女性アーティストのドキュメンタリーの特徴は?

 6月25日から人気歌手ビリー・アイリッシュのドキュメンタリー映画『ビリー・アイリッシュ:世界はすこしぼやけている』が公開された。13歳でデビュー曲「Ocean Eyes」を発表し、瞬く間にスターの座に駆け上がった才能あふれる10代のシンガーソングライター。本作はその素顔に迫る作品である。これまでにも、数え切れないほどのアーティストのドキュメンタリー映画が製作されてきた。その多くは、ツアーや大きなイベントの舞台裏を撮影したものだ。そこにはなにが映し出されてきたのだろうか。今回は、特に女性アーティストのドキュメンタリーを中心に、その特徴や変遷を見ていきたい。

『ビリー・アイリッシュ:世界はすこしぼやけている』(c)2021 Apple Original Films

若きスターの“素顔に迫る”ドキュメンタリー

 アーティストのような有名人に密着するドキュメンタリーの魅力は、やはり彼らの素顔が見られることにある。テレビの中やステージの上以外で彼らはなにを考え、なにをしているのか。なかなか知ることができないものだからこそ、ファンはもちろん、それ以外の観客にも訴えかけるものがある。

『BLACKPINK ~ライトアップ・ザ・スカイ~』Netflixにて独占配信中

 2020年の10月からNetflixで配信が開始された韓国の女性アイドルグループBLACKPINKのドキュメンタリー映画『BLACKPINK ~ライトアップ・ザ・スカイ~』は、やはりそんな魅力に満ちた作品だ。厳しい練習生時代を振り返り、スターとしての生活を楽しみつつプロ意識を育んでいく彼女たち。あまりに現実離れした生活に戸惑うこともあるようだ。またBLACKPINKは多国籍なグループ。ジス以外は、韓国生まれで幼いころから親元を離れニュージーランドに留学していたジェニー、オーストラリア育ちのロゼ、タイ出身のリサと、4人のうち3人は実は韓国とは縁が薄い。しかし彼女たちが韓国の代表として、欧米をはじめとする世界の舞台で活躍することには、現代の多様性を語るうえで大きな意味がある。そのことを彼女たちも意識しているようだ。一方で4人の仲の良さがわかる場面も多く、お互いに深く理解しあい支え合っていることも感じられる。BLACKPINKの面々はプロフェッショナルでありながら、普通の女の子とあまり変わらないことが、この作品からわかる。2016年に韓国でデビューしてから、2019年の野外音楽フェス、コーチェラに参加するまでに成長した彼女たちの姿は、あきらめずに夢に挑戦する勇気を与えてくれるのだ。

 こうした“素顔に迫る”系のドキュメンタリーは比較的若いアーティスト、キャリア初期からスターとして注目を集めたアーティストにスポットを当て、ブレイクからそう間を置かず製作されることが多い。『ワン・ダイレクション:THIS IS US』(2013年)や『ショーン・メンデス:ありのままの魅力』(2020年)といった作品もそうだ。これらのドキュメンタリー映画では、彼らのプロフェッショナルとしての態度や生活の変化に対する戸惑い、肉体的にも精神的にも過酷な状況に置かれる姿などを映し出しながらも、これからの希望が語られる。

キャリアを積むほどに語られることは増える

『レディー・ガガ:Five Foot Two』Netflixにて独占配信中

 一方で、長年スターとして君臨しつづけるアーティストにスポットを当てたドキュメンタリー映画にも秀作が多い。『レディー・ガガ:Five Foot Two』(2016年)では、彼女の私生活からパフォーマンスに対する強いこだわりなどが映し出された。それだけでなく、ひどい線維筋痛症に悩まされながら、スーパーボウルのハーフタイムショーでパフォーマンスするまでの様子が描かれている。彼女ほどのスーパースターが、つらい病気となんとか付き合いながら、あれほどの功績を残してきたのかと、唸らされる作品だ。同時に2016年に発表したアルバム「ジョアン」の着想源となった若くして亡くなった伯母について、父や祖母と語り合うという非常にプライベートでセンシティブな場面も映し出されている。レディー・ガガという世界的トップスターが、そこまでさらけ出した理由はなんだったのか。彼女はそれが同じ病気や境遇に苦しむ人々を励ますことにつながると考えたのかもしれない。そして“あの”レディー・ガガも、ままならない人生を精一杯に生きている1人の人間なのだということを訴えたかったのではないだろうか。こうしてドキュメンタリー映画で多くをさらけ出すことは、その対象が有名であればあるほど効果的だ。どんなに偉大な人物でも、それぞれに苦しみを抱え、小さなしあわせを感じ、1日1日を生きている。偉大でもなんでもない私たちと同じなのだと思わせてくれる。そして私たちに前向きな気持を与えるのだ。

『リアム・ギャラガー:アズ・イット・ワズ』(c)2019 WARNER MUSIC UK LIMITED

 また、2019年に公開された『リアム・ギャラガー:アズ・イット・ワズ』も、そういった意味で興味深い作品だ。兄ノエルの突然の脱退によるオアシス解散から、ソロアーティストとして再び返り咲くまでが本人や周囲の人々の口から語られる本作は、リアムの人として、そしてアーティストとしての葛藤や成長が克明に記録されている。Fワードの多さは変わらないが、子を持つ父親としての顔も映し出され、彼の人としての成長は明らかだ。観客にも、彼のように1度つまづいても、また立ち上がる力がみなぎってくるだろう。

 キャリアを積んだアーティストたちのメッセージは、深く重みがある。それは若きスターたちの軽やかな輝きとは違うものだが、年月を重ね、さまざまな苦難を乗り越えてきたからこそ語ることができるものは多い。そしてそれは“生きざま”というかたちでドキュメンタリー映画に収められているのだ。それが私たちの心を震わせる。

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