王道の“ナメてた相手がヤバいやつだった映画” 『Mr.ノーバディ』が少し異色な理由

 そういったトリガーの違いもそうだが、上にも挙げたような多くの“ナメてた相手がヤバい奴だった映画”の面白さは主人公がこんなことまでできる! というスキルの驚きにあった。『イコライザー』のホームセンターしかり、ジョン・ウィックのガンフー、目が見えていないはずなのに聴覚を駆使して最強の老人しかり。絶対なんだかすごいやつなんだろうな、という予想をスキルをもってして斜めを超えてきたのに対し、『Mr.ノーバディ』はその主人公のイカれっぷりの驚きに惹きがあったように思える。

 何を隠そう、彼は「やれやれ」というより自ら本当は殺し合いを求めていた、ようやく手に入れて平穏を実は壊して昔のようにやりたかったという願望を強く持ち合わせていたのだ。愛する者や普通の生活を守る、というのはていのいい口実で、ラストの工場(『イコライザー』を彷彿させる)で父親や元同僚と一緒に派手に相手を蹴散らかしていくさまは心底楽しそうに見えた。なめられた親父がキレてイカれてしまったのではなく、元から狂っていた男が自ら闇に足を突っ込んでいく姿は、ある意味“ナメてた相手がヤバい奴だった映画”の中で一線を画していたのではないだろうか。

■アナイス(ANAIS)
映画ライター。幼少期はQueenを聞きながら化石掘りをして過ごした、恐竜とポップカルチャーをこよなく愛するナードなミックス。レビューやコラム、インタビュー記事を執筆する。InstagramTwitter

■公開情報
『Mr.ノーバディ』
全国公開中
監督:イリヤ・ナイシュラー
脚本:デレク・コルスタッド
出演:ボブ・オデンカーク、コニー・ニールセン、RZA、マイケル・アイアンサイド、クリストファー・ロイド
配給:東宝東和
2020年/アメリカ/原題:Nobody
(c)2021 Universal Pictures
公式Twitter:@MrNobody_JP
公式Instagram:@universal_eiga
公式Facebook:@universal.eiga

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