猟奇殺人事件を題材に“労苦”を描く異色作 『インベスティゲーション』にみる“物語の力”

 監督は、マッツ・ミケルセンがカンヌ国際映画祭最優秀男優賞に輝いた『偽りなき者』や、第88回アカデミー賞外国語映画賞(現、国際長編映画賞)にノミネートされた『ある戦争』を手掛けたトビアス・リンホルム。グッと抑えた重厚感あふれるタッチで、じわじわと真綿で首を絞めるように容赦なく、登場人物も観る者も追い詰めていく。物語の抑揚をあえて廃し、容疑者の姿はおろか、発言もすべて伝聞形式で名前すら登場しないという異色の演出を施しながらも、緊張感が一切緩むことがなく、物足りなく感じる隙がないのは流石としか言いようがない。

 カメラワークも基本的にFIX(固定)が多いが、対象にゆっくりじっとりと近づいていくアプローチで不気味さを演出。同時に、フィクショナルな要素を画的にも抜くことで、作品全体のリアリティを担保してもいる。徹底したドキュメント・タッチが敷かれた実録犯罪ものの魅力はデヴィッド・フィンチャー監督の『ゾディアック』を彷彿させるが、リンホルム自身も『マインドハンター』のエピソード監督を務めており、近しい関係にあるといえるだろう。

 そこに、捜査主任役のマリンや、検察官に扮したピルー・アスベック(『ゲーム・オブ・スローンズ』ほか)の生々しい力演が加わり、視聴者は自身も捜査に参加しているような“実感”を得ていく。我々が作品に提供する観賞時間が、娯楽というよりもある種の労働に似た“経験”として蓄積されていき、徐々に他人事に思えなくなるというつくりも、実に興味深い。そもそも、他者の不幸を物語化して楽しむこと自体、ある種のおぞましさをはらんでおり、本作のこうした「他者化させない」真摯な向き合い方からは、「事実を物語化する」強い覚悟を感じる。


 「真実はいつもひとつ」とは『名探偵コナン』の決めゼリフだが、そのたったひとつにたどり着くまでの道のりが、いかに茨の道なのか――。『インベスティゲーション』は一見、今回の「潜水艇事件」とは無関係に思える裁判のシーンから始まるが、後々にその場面こそが、これから始まる「犯罪立証の難しさ」を明確に示していたのだと思い知らされる。観た後はほぼ間違いなくべっとりとした疲労感に打ちのめされるだろうが、イージーでインスタントな視聴スタイルが加速しがちな昨今において、「観る」ことの価値や意義を改めて考えさせられるのではないか。そうした意味では、快哉を叫びたくなるような「物語の力」に満ちた逸品なのだ。

■SYO
映画やドラマ、アニメを中心としたエンタメ系ライター/編集者。東京学芸大学卒業後、複数のメディアでの勤務を経て、現在に至る。Twitter

■配信情報
『インベスティゲーション』
「スターチャンネルEX -DRAMA & CLASSICS-」にて、全話独占配信中
脚本・監督・製作総指揮:トビアス・リンホルム
製作:MisoFilm
出演:ソーレン・マリン、ピルー・アスベック、ペルニラ・アウグスト、ロルフ・
ラッスゴード、ラウラ・クリステンセンほか
原題:The Investigation
(c)2020 Fremantle. All Rights Reserved.
(c)Henrik Ohsten and Miso Film
(c)Per Arnesen and Miso Film
インベスティゲーション公式サイト:https://www.star-ch.jp/drama/investigation/sid=1/p=t/
配信サイト:https://www.amazon.co.jp/gp/video/detail/B08WCG8DK9/ref=atv_3p_sta_c_4hhSho_brws_3_4

関連記事