『おかえりモネ』の真面目なスタンス 安達奈緒子のメッセージは10年前よりも響く?

 はじめて安達奈緒子の脚本を意識したのは2011年に放送された『大切なことはすべて君が教えてくれた』(フジテレビ系)だった。

 本作は、同僚と結婚間近の教師・柏木修二(三浦春馬)が教え子とは知らずに女子生徒と一夜を共にしてしまったことから始まる学園ドラマ。先が読めないスピード感のあるストーリーと、教師としての理想を追求することで生まれる修二の真面目さゆえのおかしさが気になって、どっぷりハマってしまった。

 その後、安達は『リッチマン、プアウーマン』(フジテレビ系)、『G線上のあなたと私』(TBS系)、『きのう何食べた?』(テレビ東京系)といったドラマの脚本を手掛けるのだが、どの作品も「仕事」や「恋愛」といったテーマを真摯に掘り下げており、その真面目さが気になって作品を追っていた。

 大きな転機となったのは、産婦人科医院を舞台にしたドラマ『透明なゆりかご』(NHK総合)だろう。安達の真面目さとNHKドラマの作風とうまくマッチし、今作で安達は作家として高く評価されるようになった。

 その後、同じNHKで作られた特殊詐欺を題材にしたドラマ『サギデカ』を経て、満を持して今年『おかえりモネ』を書くこととなったのだが「誰かの役に立ちたい」と考えるモネや「人の命を救いたいと思ったからです」と医者になった理由を言った後「普通過ぎて面白くない」と言う菅波は、過去の安達作品と同じように真面目さが愛嬌となって現れている人々で、その作家性は今も健在だ。

 10年前は安達の真面目さを面白がる一方で「この真面目さは世の中に受け入れられるのだろうか?」と心配だったが、現在はむしろ「この真面目さこそが世の中に求められている」と感じる。本作の大人たちといっしょに、モネのことを遠くから見守りたいと思う。

■成馬零一
76年生まれ。ライター、ドラマ評論家。ドラマ評を中心に雑誌、ウェブ等で幅広く執筆。単著に『TVドラマは、ジャニーズものだけ見ろ!』(宝島社新書)、『キャラクタードラマの誕生:テレビドラマを更新する6人の脚本家』(河出書房新社)がある。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『おかえりモネ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
※土曜は1週間を振り返り
出演:清原果耶、内野聖陽、鈴木京香、蒔田彩珠、藤竜也、竹下景子、夏木マリ、坂口健太郎、浜野謙太、でんでん、西島秀俊、永瀬廉、恒松祐里、前田航基、高田彪我、浅野忠信ほか
脚本:安達奈緒子
制作統括:吉永証、須崎岳
プロデューサー:上田明子
演出:一木正恵、梶原登城、桑野智宏、津田温子ほか
写真提供=NHK

関連記事