『おちょやん』突如訪れた夫婦生活の破綻 千代の思いが木っ端みじんに打ち砕かれる

 青天の霹靂とはこういうことだろう。一平(成田凌)と灯子(小西はる)の浮気を知らされた千代(杉咲花)にさらなる裏切りが待ち受けていた(以下、ネタバレあり)。

 『おちょやん』(NHK総合)第97回で夫婦生活の破綻は突如訪れる。降ってわいたような夫の情事を最初は何かの間違いだと思っていたが、事の次第を理解するにつれて、千代の全身からふつふつと怒りが沸き上がってきた。

 ふだん穏やかな人ほど怒らせたら怖いという真理は千代にも当てはまる。弱り切った一平を責める剣幕は座員も震え上がるほど。涙と笑いは両立しても、怒りは冗談で済まされない。千代は自宅を出て岡福に身を寄せる。一平をとっちめてやろうと息巻くシズ(篠原涼子)やみつえ(東野絢香)を見て、もし岡安のお茶子シスターズがここにいたらと想像した。

 怒りの矛先は一平に向けられたが、千代に灯子を責める気はなかった。「一平のせいで灯子はえらい苦しんでる。あいつ、なんちゅうことしてくれたんやて」。それでも「何べんもよう考えたんやけどな。うちは一平が灯子にしたことが許されへんだけやねん」。灯子が許すなら、一平と夫婦でいたいという千代の言葉を「それだけ一平のこと好きいうことなんと違う?」と代弁するみつえ。

 この時点で千代は一平のことが嫌いになったわけではなく、主として座長でありながら劇団員に手を出した一平の無責任さを責めている。「男いうのは、ちょーっと何かあったらすぐお酒やら女に逃げる」とは鶴蔵(中村鴈治郎)への弁。千代は新作が書けない一平の悩みを知っている。結婚前から一平は女にだらしなかったし、テルヲ(トータス松本)を見てきた千代は、男はどうしようもない生き物と観念しているのだ。

 しかし、その思いは木っ端みじんに打ち砕かれた。浮気相手の妊娠。朝のひと時に本人の口から言わせる修羅場は避けたが、他人から知らされるというある意味もっと残酷な仕打ち。こうなったら話は別だ。「もう何も話することなんかあれへん。そのあほ面、二度とうちの前に見せんといて。さっさと消えて」。二度裏切られた妻には、こう言う以外なかった。

 座長の妻としていられるうちは、まだなんとか受け止める余裕があった。しかし、男と女を見せつけられるときつい。ややこ(赤ん坊)の存在は子どものいない千代と一平にとって決定的で、長年の献身や分け合ってきた孤独もとたんに色あせる。灯子も一平も千代も、誰一人互いを傷つけたくないのに、突然できた亀裂を前にどうすることもできずにいる。

■石河コウヘイ
エンタメライター、「じっちゃんの名にかけて」。東京辺境で音楽やドラマについての文章を書いています。ブログTwitter

■放送情報
NHK連続テレビ小説『おちょやん』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演:杉咲花、成田凌、篠原涼子、トータス松本、井川遥、中村鴈治郎、名倉潤、板尾創路、 星田英利、いしのようこ、宮田圭子、西川忠志、東野絢香、若葉竜也、西村和彦、映美くらら、渋谷天外、若村麻由美ほか
語り:桂吉弥
脚本:八津弘幸
制作統括:櫻井壮一、熊野律時
音楽:サキタハヂメ
演出:椰川善郎、盆子原誠ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/ochoyan/