『ゴジラvsコング』全米大ヒットの裏で映画館チェーンが閉鎖 変革が急速に進むハリウッド

 同社のもう一つのブランド、パシフィック・シアターズはロサンゼルス市内中心地にある屋外型ショッピングモールのザ・グローブと、近郊のグレンデール市にあるアメリカーナ・アット・ブランドに映画館を持っていた。余談だが、ビリー・アイリッシュの「Therefore I am」はアメリカーナに隣接するグレンデール・ギャラリアで撮影されている。アイリッシュの出身地ハイランド・パークからグレンデールまでは7マイル(約11キロ)で、彼女にとって親しみのある場所だったのだろう。映画館を失ったショッピングモールは、これから次世代のビリーたちにどんな夢を見せることができるのだろうか……。

エル・キャピタン

 映画館やシネコンの経営が立ちいかなくなると必ず話題に上がるのが、「どのストリーミングサービスが買うか?」ということ。もちろん、ハリウッドのエジプシャン・シアターの運営とニューヨークのパリス・シアターの賃貸を行っているNetflixの名前が筆頭に挙げられている。Netflixのハリウッド本社からシネラマ・ドームまでは、サンセット大通りを西に1マイル弱、徒歩でも15分の距離と“ご近所”なことも理由のひとつだ。ディズニーはハリウッド大通りにエル・キャピタンという1920年代に建てられたスパニッシュ・コロニアル建築の美しい劇場を持っている。そもそも、アメリカにはパラマウント同意判決(映画配給に関する多くの反トラスト法(米独占禁止法)規定を含む)があり、1938年当時の5大スタジオ(パラマウント、ワーナー、MGM、フォックス、RKO)と下位3社(ユニバーサル、コロンビア、ユナイテッド・アーティスツ)は、直接的な劇場所有を禁じられていた。だが、2019年に米司法省が70年以上前に裁定されたパラマウント同意判決の見直しを行い、2020年8月に連邦裁判所が司法省の決定を承認し、直ちに撤廃された。同意判決のうち、反トラスト法に含まれるブロック・ブッキング(複数の映画を一つの劇場公開契約に含むこと)とサーキット・ディーリング(一つの契約で系列劇場すべてを含むこと)は、2年間の日没条項をもって撤廃される。ちなみに1938年当時配給を行っていなかったディズニーは訴訟には含まれておらず、NetflixやAmazonプライム・ビデオなどのハリウッド新興勢力はもちろん存在していない。アークライトとパシフィック・シアターズを救うのは、飛ぶ鳥を落とす勢いのストリーマーかもしれないし、パラマウント同意判決撤廃後に自由競争を手に入れた映画スタジオかもしれない(参考:米映画産業、ディズニーの再編計画はパンドラの箱? スタジオの劇場所有をめぐる独占禁止法撤廃の動きも)。

 ワーナー・ブラザース映画のハイブリッド公開戦略は2021年いっぱい続き、ディズニーは『クルエラ』『ブラック・ウィドウ』を劇場公開と同時にディズニープラスで配信する。ディズニープラスはHBO Maxと異なり海外でもサービスを展開しているので、日本でも同様の公開方式になる。Netflixは、2022年から複数年間ソニー・ピクチャーズの劇場公開作品を米国内で独占的にストリーミング配信する権利を獲得。また、ソニー・ピクチャーズが制作するすべてのオリジナル映画について、ストリーミングストレートとなる作品についてのファーストルック契約を締結している。この1年、パンデミックによって様々な変革が急速に進んでいるハリウッド。ハイブリッド公開やパラマウント合意判決撤廃によるブッキング方式の変更など、まだ変化の途中といったところだろう。

参考

https://variety.com/2021/digital/news/hbo-max-app-downloads-godzilla-vs-kong-1234947938/

■平井伊都子
ロサンゼルス在住映画ライター。在ロサンゼルス総領事館にて3年間の任期付外交官を経て、映画業界に復帰。

■公開情報
『ゴジラvsコング』
5月14日(金)全国公開
出演:アレクサンダー・スカルスガルド、ミリー・ボビー・ブラウン、レベッカ・ホール、ブライアン・タイリー・ヘンリー、小栗旬、エイザ・ゴンザレス、ジュリアン・デニソン、カイル・チャンドラー、デミアン・ビチル
監督:アダム・ウィンガード
脚本:エリック・ピアソン マックス・ボレンスタイン
製作:レジェンダリーピクチャーズ ワーナーブラザース
配給:東宝
(c)2021WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. & LEGENDARY PICTURES PRODUCTIONS LLC.

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