『おちょやん』杉咲花の「人形の家」に込められた再生への祈り 千代に課せられた“義務”

 それぞれが自分自身に課していた神聖な義務。千代にとってそれは、喜劇で人を笑顔にすること。失われた命がある。それでも残された人々は、今度は国のためではなく自分の義務を全うするために生きなければならない。

 千代と共にノラの台詞を大声で叫んだ一平は、「祝電」として家庭劇のメンバーを集める。小山田(曽我廼家寛太郎)は役者を引退し、ルリ子(明日海りお)は父の面倒を見るために一時故郷に。寛治(前田旺志郎)も満洲に行ったきり帰ってきてはいないが、久しぶりに変わらぬ家庭劇の面々と再会し、千代は喜ぶ。そこで座長の一平はみんなに、全国を行脚して回り多くの人に芝居を見てもらおうと提案。満場一致で賛成となったが、千代は道頓堀を離れる前にやり残したことがあった。それは福助を亡くして以降、ふさぎ込んだままのみつえを励ますこと。喜劇女優として千代が戦後、最初に果たすべき義務だ。

 今回最も印象的だったのは、千代が「人形の家」の一幕を演じた場面。前作の朝ドラ『エール』で光子を演じた薬師丸ひろ子が敗戦の知らせを聞き、賛美歌「うるわしの白百合」を歌ったが、どちらの場面にも共通して「再生への祈り」が込められているように思う。権力を前に為す術もなく、戦争に巻き込まれ、多くのものを失った人々。泣き笑いの“泣き”では到底表現できない悲しみを抱える千代たちが、戦後どのように立ち直り、芝居で人を笑顔にするのか。家庭劇の行く末を見守りたい。

■苫とり子
フリーライター/1995年、岡山県出身。中学・高校と芸能事務所で演劇・歌のレッスンを受けていた。現在はエンタメ全般のコラムやイベントのレポートやインタビュー記事を執筆している。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『おちょやん』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45
※土曜は1週間を振り返り
出演:杉咲花、成田凌、篠原涼子、トータス松本、井川遥、中村鴈治郎、名倉潤、板尾創路、 星田英利、いしのようこ、宮田圭子、西川忠志、東野絢香、若葉竜也、西村和彦、映美くらら、渋谷天外、若村麻由美ほか
語り:桂吉弥
脚本:八津弘幸
制作統括:櫻井壮一、熊野律時
音楽:サキタハヂメ
演出:椰川善郎、盆子原誠ほか
写真提供=NHK
公式サイト:https://www.nhk.or.jp/ochoyan/

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