『天国と地獄』に松坂桃李主演ドラマも 令和の時代に再び流行の“入れ替わり”ストーリー

 しかしながら、映像作品として単純にこの“入れ替わり”を扱うに当たっては、どうしても両者の違いを視覚的に示す必要が出てくる。そのためキャラクター性は濃くなり、“入れ替わり”という基本設定以上に突飛な内容を生まざるを得ない。特に海外における同種作品にファンタジー性よりもコメディ性を強く出す作品が多いのはそのためか。もちろん演じる側が、これまで演じたことのない性別や世代の役柄を演じるという点で、俳優の力量をいかんなく発揮することにもつながるわけだが(それにおいては『パパとムスメの7日間』の舘ひろしは本当に名演であった)。

 ごくシンプルな“入れ替わり”にはドタバタしたコメディ要素が付きものとなる一方で、死者の魂が別の誰かの肉体へと転移するというタイプの“入れ替わり”はドラマ性を生みやすい。代表的なものでいえば、東野圭吾の小説を滝田洋二郎が映画化した『秘密』であり、事故をきっかけに母親の魂を宿してしまった娘と父親の関係が描かれる。序盤こそコメディ的なニュアンスを見せるシーンがあるが、徐々に切ない物語へと転じていく。これは1930年代に上演された舞台を原作に、アレクサンダー・ホールが映画化した『幽霊紐育を歩く』(後にウォーレン・ビーティーがリメイクした『天国から来たチャンピオン』が有名)も同様だ。日本では西田敏行が主演した『椿山課長の七日間』もそうであり、考え方によっては『君の名は。』もこちらに限りなく近いものがある。

『ザ・スイッチ』(c)2020 UNIVERSAL STUDIOS

 このように「コメディ」か「感動」かの両極端になりやすい“入れ替わり”だが、近年の傾向としてはそのどちらともつかない別ジャンルとの親和性が試されている印象だ。コミカルなキャラクター性にサスペンスを足した『天国と地獄』も然り、感動になりやすいタイプを逆にラブコメディへと置き換える『あのときキスしておけば』も然り。2018年にNetflixで配信された『宇宙を駆けるよだか』はその設定のファンタジー性を残しながら青春ドラマとして貫き、4月9日に日本公開されるブラムハウス製作の『ザ・スイッチ』はホラー色が押し出される。使い倒されてきた古典的な発想を、いかにして進化させていくか。その試行錯誤こそ、秀逸な作品を生むためには欠かせないアクションといえよう。

■久保田和馬
1989年生まれ。映画ライター/評論・研究。好きな映画監督はアラン・レネ、ロベール・ブレッソンなど。Twitter

■放送情報
『あのときキスしておけば』
テレビ朝日系にて、4月30日(金)スタート 毎週金曜23:15〜放送(一部地域で放送時間が異なる)
出演:松坂桃李、麻生久美子、井浦新、三浦翔平、岸本加世子、MEGUMI、猫背椿、六角慎司、阿南敦子、うらじぬの、角田貴志、藤枝喜輝、川瀬莉子、板倉武志、窪塚愛流
脚本:大石静
演出:本橋圭太、日暮謙、YukiSaito
ゼネラルプロデューサー:三輪祐見子(テレビ朝日)
プロデューサー:貴島彩理(テレビ朝日)、本郷達也(MMJ)
制作:テレビ朝日、MMJ
(c)テレビ朝日

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