キャリア初のオスカー候補入り チャドウィック・ボーズマンが100%を注ぎ込んだ演技への愛

 チャドウィック・ボーズマンが、今年のアカデミー賞でキャリア初の候補入りを果たした。彼の最後の映画となった『マ・レイニーのブラックボトム』で、主演男優部門にノミネートされたのだ。奔放で反抗的、しかし奥に深い悲しみと怒りを抱えている男性を演じる『マ・レイニーのブラックボトム』のボーズマンは、実にエネルギッシュでパワフルだ。最後まで100%を注ぎ込んだボーズマンの演技への愛とプロフェッショナル精神に、頭が下がる。

 同じことは、『21ブリッジ』にも言える。本作がアメリカで公開されたのは、ボーズマンがガンで亡くなる9カ月前の、2019年の11月。北米公開直前、ボーズマンは、この映画について語るためにビバリーヒルズのフォーシーズンズホテルに来てくれたのだが、見るかぎりはとても元気そうで、まさか闘病中だとは想像もしなかった。

 黒人初のメジャーリーガー、ジャッキー・ロビンソン、歌手のジェームズ・ブラウン、スーパーヒーローのブラックパンサーなど幅広い役を演じてきたボーズマンにとって、刑事役は初めてだ。ジョージ・フロイド氏が警官によって殺され、「Black Lives Matter」運動が盛り上がるのは、その翌年である2020年になってからだが、警察や司法による黒人差別はアメリカの歴史においてずっと前から存在し、根が深い。ボーズマン自身も、何も悪いことをしていないのに、運転中、警察に止められるということを、何度も経験してきたという。警察に対して複雑な思いを持っていただけに、この役を引き受けるかどうかにおいては、かなり迷いがあった。

 それでも引き受けたのは、警察というのがどんな人たちなのかを理解するチャンスだと思ったことがひとつ。さらに、この役にボーズマンを強く望んだブライアン・カーク監督が、彼にプロデューサーの肩書きも与え、彼の意見をたっぷりと反映させたことが大きかった。「チャドウィックは『ブラックパンサー』で世界的スターになったばかりだったが、彼はまだ僕らが見ていない多くのものを抱えていると思った。それで僕は、『これはキャラクターの内面のジャーニーを辿る映画。そのジャーニーは、こっちの方角にも行けるし、別の方角にも行ける。君が自分自身を最高の形で表現できるよう、その方角を決めてほしい』と主演をお願いしたんだ」と、当時カーク監督は語っている。

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